28話 特訓の方針

「何だって俺がお前の従者メイドを鍛えなきゃなんねぇんだよ! そんなつまらないもん、お断りだ!」


 ヘルブラムはそう言った。リアクションが想定内過ぎて怖いくらいである。自分が楽しむことしか脳にないらしい。けどそれじゃあ困る。説得させてもらうぜ。


「まぁまぁ、そう言うなって。お前の求めてることはよく分かる。強い奴と戦いたいんだろ?」


「おうよ!」


「でも冒険者は来てくれない」


「そうだ!」


「周りに強い奴が居ない訳だろ?」


「まぁ、そういうことになるな」


「だったら、お前が強い奴を生み出すしかないだろう」


「俺が?」


「そうだ。大体、お前が強すぎるから冒険者とかは寄ってこないんだよ」


「‥‥‥おう」


「そんな最強無敵のヘルブラムさんによって鍛え上げられた奴は、どうよ」


「俺に鍛え上げられた奴は‥‥‥‥‥‥超強くなる!」


「そう! そしてお前と拳を交える度にどんどん強くなっていき、お前の最強のライバルが誕生する!!」


「おぉ! すげぇ!」


「だろ? で改めて訊くが、セシリーを特訓してくれないか?」


「よっしゃァァァッ!! やってやるぜェェェッ!!!!」


 よし、説得完了。


 ヘルブラムは自分のことしか脳にない戦闘バカだが、自分の感情に素直な奴だ。幹部なんて孤独な仕事やってりゃ、得られるものも限られる。もっと楽しい生き方があるってことを、俺が教えてやる。


 あとは、もう一つの懸念。


「セシリー、それでいいか?」


「ヒロト様のご命令とあらば、喜んでお受け致します」


 セシリーは答えた。そりゃあ、口でなら絶対そう答えるよな。幹部である俺の提案なのだから。こういう時は表情を窺う。セシリーは何かと顔に出るからな。


 マイナスな感情は‥‥‥どこにも見当たらない。――大丈夫みたいだ。これで強くなりたいセシリーとライバルが欲しいヘルブラム、二人の望みを叶えられるだろう。



 *  *  *  *  *



 とりあえず庭に出たまでは良いのだが。


「特訓って、どうすりゃいいんだ?」


 ヘルブラムは困っていた。セシリーはそんなヘルブラムをじっと見つめて姿勢良く立っているだけである。シュールだ。


 それもそうか。ヘルブラムは強さを見込まれて幹部の地位を与えられただろうから、教えろと言われても困るのは当然だ。


 ‥‥‥しかしこれ、本当に難しくないか? セシリーは刻む技能スキルで、ヘルブラムは強力な炎の技能スキル。お互いに攻撃を相殺しにくそうだ。普通に戦えばどちらかが大怪我を負うことは確実だろう。この前やったみたく石を使った間接的なそれなら良いだろうが、それじゃあパワー特化のヘルブラムが指導する意味が薄れる。


 めといた方が良かったかな‥‥‥。


 ところで俺はどこで何をしているのかと言うと、玄関から高みの見物を決めこんでいる。ティアナは家事を続け、ヘルブラムの従者メイドは――


「ヘルブラム様に師が務まるのでしょうか‥‥‥」


 俺の隣で同じく高みの見物だ。近くに来て分かったが、身長が少し低いな。セシリーたちより若い気がする。それでヘルブラムを制してるんだから、すごく優秀な従者メイドだよなぁ。


従者メイドさんは、どうしたら良いと思う?」


 俺はヘルブラムの従者メイドに尋ねてみた。何か良い案が得られるかもしれないからな。


 ヘルブラムの従者メイドは首を傾げた。


「どうするも何も、ひとまず実戦して互いを知るべきでしょう」


 ――うん?


「それは‥‥‥普通に戦っちゃうってこと?」


「はい」


 えっ。何言ってるんだこの子。どう考えても大怪我間違いなしじゃないか。何考えてるんだ。クール過ぎて脳が凍結しちゃってるのだろうか?


「何故戸惑っておられるのですか?」


 ‥‥‥おっと? これはマジのヤツ? 戸惑う俺の方が異常だと思っておられる?


「いやだって、怪我しちゃうだろう?」


 そう言うと、彼女は合点がいったような表情で「なるほど」と呟いた。


「自己紹介がまだでした。私はレベリアと申します。私の自然技能ユニークスキルは《状態回帰リワインド》。対象の一部の状態を一定時間前に戻す技能スキルです」


「そうだったのか」


 それで俺は理解した。ヘルブラムの従者メイド――レベリアは怪我を治すことができるのだ。つまり怪我を心配する必要がなくなった。


「ヘルブラム様はセシリーさんを倒したと仰いましたが、どうせ一方的に攻撃を仕掛けたのでしょう。純粋なパワーだけなら、ヘルブラム様は幹部でも随一ですから」


 レベリアは呆れたように言った。


「なるほど‥‥‥」


 となると、確かに実戦をさせるのが一番手っ取り早い。だが、それだと森を破壊しかねない。俺が境界壁シールドであいつらを覆ってしまえばエネルギーが充満し、境界壁シールド内部が危険だ。


 ‥‥‥いや待てよ? 森と屋敷が無事ならそれで良いんだよな。だったらヘルブラムたちを完全に覆う必要はないじゃないか! 四方を囲んで、上を開放しておけばエネルギーが充満することはない。


 ――よし、決まりだ。


「ヘルブラム! セシリー!」


 俺は二人を呼んで、一対一で戦ってもらう旨を伝えた。


「――そういえばレベリアはそんな技能スキル持ってたなぁ」


「さすがヒロト様。感服致しました」


 二人ともすんなり納得してくれた。ひとまずはこれで良い。というかずっと戦わせとけば勝手に強くなるんじゃないか?


 何はともあれ、方針は決まった。早速、俺は境界壁シールドを展開した。

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