24話 仮説のまた仮説
――とか冷静に分析できる状況じゃねぇ!!!!
あっぶなっ! あと少し
つか、本当に勇者の攻撃見えなかったんだが。あれ何したん? まじで剣を傾けたようにしか見えなかったぞ?
それもこれも、この世界がテンプレに忠実だったおかげで対処できた。あの勇者も例外じゃなかったのだ。
しかしそれが分かったところで油断はできない。
あの勇者は変わった行動をとる。魔王軍幹部の屋敷に来るなり堂々と声をかけたり、自己紹介と称して自分の力を披露しようとしたり。
俺はそんな変わった行動を理解するではなく、毎回先読みしなければならない。じゃなきゃ、あの見えない攻撃を対処できないのだ。
「結界‥‥‥? いや、ここに来た時にそんな反応はなかった。
ユリウスはブツブツと言った。
「ふーん。大体分かったよ、君のこと」
ユリウスは明後日の方を適当に眺めながら言った。
――おいおい、それはさすがに言い過ぎじゃないのか? いくら
手の内は常に手の内側にないと意味がない。これを警戒させて本質を見えなくするのが俺のやり方だ。
「随分とすごいことをサラッと言ってくれるな、勇者よ」
それっぽい口調で喋って雰囲気を作る。
「俺のことが大体分かった、だと?」
「うん。僕は自己紹介をしに来たと言っただろう? 僕も君もお互いに力を見せ合ったんだから、『分かった』って言ってるんだよ」
ユリウスは呆れたように言った。だがこれではマズイ。ちゃんと勘違いしてもらわないと。
「ふっ‥‥‥。まだ俺はお前に力の一部しか見せ――――」
俺の言葉を遮ったのは一瞬の凄まじい風。
――――刃が、俺の首元を睨んでいた。
気づけば勇者は目の前で、剣を俺の首筋に立てていた。
「何度も言わせないでよ、無能幹部さん。僕は君をいつでも殺せる。それが分かればもう十分なんだ。これ以上僕を落胆させないでくれ」
それは化け物というには輝きが強く、しかし人間というには――――些か狂気に満ちた目であった。
俺は一連を理解するのにもうしばらく時間が必要で、目を見開いたまま動けないでいた。
ユリウスは剣を鞘に収め、俺に背を向けた。
「それじゃあ幹部さん。お勤めご苦労様でーす」
そのまま森に消え入ったのだった。
「「――ヒロト様!!」」
二人の声で俺は我に返った。
「ご無事ですか!?」
「お怪我は!?」
ティアナとセシリーが口々に言った。
「だ、大丈夫だ。そこまで心配しなくても――」
「「良くありません!!」」
「えぇ‥‥‥」
――まぁ、確かに今回は心配するのも無理はないか。俺は今しがた、勇者に殺されかけたのだから。その勇者は完全に脅すつもりでそうしていたんだろうけどね。
ひとまず帰ってくれたから良かった。
「とりあえず戻るか」
俺は踵を返した。――と思ったが、一歩として動けていない。足元を見てみると、俺の足は、少しだが小刻みに震えていた。
俺、ビビってるんだ‥‥‥。
あまりに急な出来事で、自覚すらできていなかったらしい。それがなんだか可笑しくて。
「ふっ、面白い‥‥‥」
と強敵みたいなセリフを呟いてしまっていた。
状態を自覚できたからか、それからは足は普通に言うことを聞くようになった。俺は屋敷に戻った。
* * * * *
ソファーに寝転がりながら考えていた。
勇者、強かったなぁ。まだまともに攻撃を見た訳ではないけど、どうとでも俺たちを殺せるって感じだった。もし自己紹介と言わずあのまま戦いが始まっていたなら、とても対処できなかっただろう。
勇者はその気ではなかっただろうし、その後の展開がどうなるかは分からなかった。だが、
良くも悪くもこの世界はテンプレに忠実だ。ここで言うなら、異世界ファンタジー作品のテンプレ。
ここからはあくまで俺の推測にすぎないが、大体の見立てである。
この時点で俺は現在、勇者より遥かに弱いということになる。しかしあの勇者の態度といい、佇まいといい‥‥‥。どうも悪役臭い感じが否めない。俺がレグリス王国に居た頃の勇者は超良い奴だったってのにな。時代は移ろうってことだな。
それはともかく、あの他人を見下すような性格を鑑みれば、「勇者はいずれ何者かに敗れて改心する」、というのがテンプレのシナリオだろうか。
そして誰が勇者を倒すのか。それは"ざまぁ要素"の視点で見れば、俺だろう。
で、俺はどうやってあの勇者を倒すのか。
物語には、教訓が込められていることが少なくない。それをこの場合で考えるならば、「善悪の立場に関わらず、真摯に努力した者には及ばない」といったところだろうか。俺は悪役で勇者はヒーローなので、こんな感じの教訓がちょうど当てはまるはずである。
この仮説に仮説を重ねたような推測が正しいならば‥‥‥
俺は努力しなければならないことになる!!!!
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