21話 俺はボッチではない。

 俺は今、石を集めている。木々の隙間から朝日が照らす中、石を集めている。


「お、これはお手頃だな」


 一体何が悲しくて一人で石を集めているのかって? とりあえずボッチを見る目止めろ。違うから。ちゃんと理由があるから。


「ヒロト様、ご朝食の準備が整いました」


 セシリーが玄関で俺に呼びかけた。


「あぁ、今行く」


 俺は確かにそう返事したはずなのだが。セシリーはこちらに歩み寄ってきた。


「何かをなさっておられるならば、私が代行致します」


「気持ちだけ貰う。屋敷で待っててくれ」


「承知致しました」


 セシリーは一礼し、屋敷に戻った。聞き分けの良い従者メイドで助かるというものだ。


 どうしてこんな地味な作業を従者メイドにやらせなかったのかって? うん、だからとりあえずボッチを見る目を止めろ。違うから。せっかく気を遣って話しかけてくれた女の子に対して強がっちゃったとかじゃないから。


 教え子のために自ら汗を流す。これこそ師の鑑よ。


 意味が分からないって? 気にするな、すぐに分かる。だからとりあえず変質者を見る目止めろ。



 *  *  *  *  *



 朝食を済ませた俺は、セシリーと庭に出た。そう、戦闘指導の時間だ。


「今日は実践的なことをすると仰っていましたが、何をするのですか?」


 いつもより若干、瞳を輝かせて尋ねるセシリー。興味津々のようである。


 ところで、まさか俺がセシリーの指導を忘れていた、なんて思ったりしてないだろうな? 無論、ちゃんと毎日三時間行っていた。"忘れられた初期設定"なんてことはないから安心したまえ。


 これまで俺が行ってきた指導は、セシリーの自然技能ユニークスキルである狂想曲キリングリズムの操作性の向上を目的としたものである。


 狂想曲キリングリズムは、セシリー曰く一定範囲を荒く刻む攻撃的な技能スキル。指先で軌道を描き、いくつもの"何か"が空間を刻むのだが、セシリーはその何かを"やいば"と呼んでいるらしい。


 まず行ったのは、"大きな岩をいくつか離したところに設置し、俺の言った順に破壊する"ということだ。大雑把でも操作する感覚を掴む必要があるからな。


 岩を破壊できるかどうかという懸念は全く必要なかったらしく、一撃で粉砕してしまった。


 慣れてきたら岩を大きめの石、普通の石、とサイズを小さくしていった。さらには、"破壊する石"と"破壊してはいけない石"とを定め、操作性をより高度なものへと仕上げていった。


 セシリーはさすがに上達が早く、これらのメニューを昨日までにできるようになってしまった。なので今日は実践的なことをしよう、と提案したのだ。



「――今日は俺と勝負してもらう」


 俺がそう言うと、セシリーは目を丸くし、オドオドし始めた。


「なっ! ヒロト様と!? まま、まだそれには全く及んでいないかと存じます!」


 いつもは冷たい表情だというのに、指導となればこの可愛らしい反応である。それだけキャラクターを使い分けられるのなら役者になった方が活躍できると思うよ。


「まぁ俺が強いという訳じゃないけど、真っ向勝負なら俺が境界壁シールドこもれば攻撃のしようがないからな」


 俺は苦笑しながら言った。そして集めた石の一つを拾い上げ、セシリーに向けた。


「良いか、セシリー。考えることが大切だ。よく考えれば、未来をある程度予測できたりしてしまう。下手したら、一切攻撃をせずに勝負に勝てることだってありえるんだ。物事に行き詰まったら、とりあえず根本的なところから考えるんだぞ。‥‥‥今日やる勝負ってのは真っ向から戦うんじゃない。――この石をかけての勝負だ」


「石をかけて‥‥‥ですか?」


 俺はセシリーに勝負の内容を説明した。


 ――まずは石をバラバラに、離れた箇所に配置する。地面だったり木の上だったり草むらの中だったり。セシリーはそれを破壊するのだが、今回は俺から順序を指示することはない。ただし、俺が境界壁シールドで石を保護する。


 今回の勝負というのは、"石をかけた攻防戦"なのだ。


「とは言え、俺が全ての石を保護してしまえば勝負にならないし、ただ破壊するだけなら刃の軌道を操作する必要もないだろう。だから――」


「互いに制限をかけるということですね!」


 セシリーが俺の言葉を遮り、その先を言った。強くなることには積極的なヤツである。


「その通り。俺は石を同時に一つしか守れず、お前は刃を二つまでしか使えないようにする。石は全部で十個。九個破壊できたらセシリーの勝ち。それで良いか?」


「はい。精一杯努めさせていただきます!」



 *  *  *  *  *



「手伝わせて悪いな、ティアナ」


「いえ、お役に立てて光栄でございます。――それでは、始め」


 ティアナに審判を頼み、石をかけての俺とセシリーの勝負が始まった。

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