第4章 動き出す勇者一党
20話 勇者参上
ヒロトの屋敷があるクーゲラス森林から荒野を跨いで南に位置する"人間の国"、レグリス王国。その中央区に構える巨大な城――レグリス城。
「失礼します」
一人の兵士が、その王室を訪れた。そこには国王はもちろんのこと、もう一人、華美な武装を携えた兵士が居た。彼は、王国兵士団の兵士長――ダリア=サーバルトである。
「ギルドから何か連絡はあったか?」
ダリアが問うと、兵士は視線を落とした。
「例の冒険者らは、まだ行方が知れないのか」
「いえ、ギルドの調査により四人全員発見されました‥‥‥。しかし――」
兵士が妙に怯えている。それを見たダリアは、事情を察し、顔をしかめた。
「――皆、何者かに殺害されていると報告を受けました」
玉座に腰かけている国王は、真っ青になってそこから跳ね上がった。
「あの森の魔王軍幹部は我が国の英傑たちが仕留めたのではなかったのか!?」
――それは一年前のことである。ヒロトより以前、かつての魔王軍幹部がレグリス王国を襲った。それを鎮めたのが勇者一党である。その後には魔王も姿を現したなどと噂されているが、これも勇者一党が撤退に追い込んだとされ、以来彼らは"レグリス王国の英傑"と呼ばれている。
「落ち着きましょう、王よ」
荒い息の国王に対し、ダリアは冷然と言った。その場で彼のみが冷静だった。
「死体はどこで発見されたのだ?」
表情を険しくしたダリアの質問に、兵士は慌てて答えた。
「ええと! 森の中央辺りです」
ダリアは考えた。
魔王軍幹部は"従者"を付き従えていると聞いたことがある。幹部が空席となっている間でも、その従者が森を防衛していた可能性は十分にある。しかし、あの事態から一年。一番の懸念は――
「魔王が新たな幹部を森に寄越したか」
国王は目を丸くした。
「馬鹿な! いくら魔族といえ、あれだけの戦闘能力を持った者はそう居るはずがない!」
――国王の言い分はもっともである。
魔族の能力値は人間より高いが、冒険者を志した者であれば戦えないことはなかった。強力な魔獣を相手にしたとて、逃走くらいは可能であった。しかし魔王軍幹部は違う。彼らは数百年前から魔王に仕え、守護していた強者である。これまで、人間はその領地を保つことが精一杯だった。現在の勇者が英傑と呼ばれる所以も、そんな幹部を一人討ったことにある。
そのような幹部の空席をわずか一年で補うことなど、できないはずである。今回、冒険者らを殺害したのはヒロトの
「アルフが不在だというのに、冒険者ギルドは何をしておるんだ! これではまた魔王軍に襲われかねん!」
「王よ。まだ幹部が現れたと決まった訳ではありません。調査を行い、事実確認を致しましょう」
「――ならば僕が適任ですね!」
若々しく明るい声が王室に響いた。いつの間にか、兵士の背後に青年が立っていた。それを確認した兵士は腰を抜かしてしまった。
「ゆ、勇者ユリウス!?」
「おや、国を守る誇り高き兵士様が僕のことをご存知だなんて。光栄ですね」
青年――ユリウスは笑顔で一礼をした。彼こそが、一年前の幹部討伐の立役者でありレグリス王国の勇者、ユリウス=J=リリエーラである。
弱冠十七歳にして勇者一党に選抜され、王国に十余年眠っていた"聖剣アグニ"を唯一握ることができた者として高く評価され、現在では勇者一党のリーダーを務めている。
国王は透かさずユリウスに駆け寄り、手を握った。
「ユリウスよ! よくぞ来てくれた!」
「いえいえ。どうやら話題が一致していたようで、手間が省けたのでよかったです」
ダリアは腕を組んでため息をついた。
「随分と自信があるようだな、冒険者」
ユリウスは笑顔こそ絶やさなかったが、目つきだけが、鋭くなった。
「やだなぁ、兵士長。僕を死んだ奴らと同じ呼び方しないでくださいよ」
ダリアとユリウスは睨み合った。そんなことなどいざ知らず、国王はユリウスの両肩をがっちりと掴んで揺らしながら言った。
「ユリウスよ! お前ならば安心だ。勇者一党に、クーげラス森林の調査を依頼する!!」
「ええ。そのご依頼、喜んでお受け致します」
「だがもし、本当に幹部が居たらどうするつもりだ?」
ダリアは尋ねた。
「兵士長。貴方だって知らない訳じゃないでしょう? 勇者一党が魔王軍幹部を討伐したこと」
「しかしあの当時は――」
「僕なら、幹部程度であれば三人は同時に相手できる。そしてその全員の息の根を止めることができる」
そう言いながらユリウスはダリアに歩み寄った。そして顔を近づけた。
「これは冗談じゃありません。なんなら僕と戦ってみますか? 昔よくやったみたいに」
その瞬間は空間が凍りついたようであり、兵士は怯えて立つこともできなかった。
やがてユリウスはダリアから離れ、王室の扉を開けた。
「それでは行って参りますね」
そして笑顔で去っていった。兵士はようやく立ち上がることができた。
「へ、兵士長。我々はどう致しましょう?」
ダリアは腕組みを止め、扉に歩み寄りながら答えた。
「我々の役目はこの国を守ることだ。外のことは冒険者に任せれば良い」
「はっ!」
「では王よ。私どもはこれで失礼させていただきます」
国王は先ほどまでとは打って変わって笑顔になっていた。
「うむ! ご苦労であった!」
――ヒロトたちの知らぬ間に、勇者一党は動き出す。
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