episode2
名前を告げられて、私たちは唖然としていただろう。
アリア・夜宵・メディスン。現アキレムア連邦国の統首であるガレリア・メディスンの家系の人間でその中でも一番の才女であるアリア・夜宵・メディスンがやってくるだなんて誰も思っていなかったから。
「私のことは気軽にアリアと呼んでくださいな。堅苦しい話し方は好みじゃないんです」
話し方もテレビでたまに見る彼女と同じ話し方だった。
徐々にクラスメイトは転入生の現実を思い知っていった。私もついため息が出るくらいんは思い知らされた。教師の様子が私たちとは全くもって違う。とてつもなく媚び諂った所作で会話をしていた。私だから言えるが、虫唾が走る光景だった。
「それじゃあ、アリアさんは……」
「私はあそこがいいのですが、ダメでしょうか?」
「……え?あ、あぁ。あいつの近くはやめておいた方が——」
「席くらい、自由に決めるのもダメなんですか?」
「い、いえそういうことではなくてですてね。一応私めの意見も聞いてくれますか?」
「はい。なんですか?」
「えっと……。とりあえずあいつは『神の欠作』と呼ばれるくらい落ちこぼれているんです。なのであなたのような人があいつの隣にいてもあなたが穢れていくだけで——」
「なおさら、私はあの子の隣がいいです」
担任が私の隣に絶対に座らせたくないんだろうな、と思いながら弁明を聞いていた時だった。彼女がそう言ったのは。
普通の生徒だったら絶対に他の場所に移るだろう。だって、そこまでして私の隣に行って評判を落としたくないだろうし。
なのに、彼女は頑なに私の隣にいようとする。なんだ?私を常時いじめ続けてストレス発散の道具にしようっていう魂胆か?
(とりあえず、今回だけは担任に期待だなぁ……)
私としても統首の娘が隣に来られたら緊張とかそういう次元じゃないしいじめももっとエスカレートするのは分かりきってるから可能なら来てほしくないのだけれど……。
「な、なぜあいつの隣へ頑なに行こうとするのですか?」
「だって、彼女がこのクラスの中で一番強いじゃないですか」
寝たふりでもしてぱっと見の評価下げてやろうと思って机にうつぶしていた私だったが流石に顔を上げなければならなかった。今なんて言った?聞き間違いだよな?
クラスメイトは全員顎を外して戻せないくらいには唖然としていた。それもそうだろう。今まで雑魚だの最弱だと言い続けられた私を、今ここで最強と言い放ったのだ。私だって信じられない。
「……ご冗談はともかく、なんであいつの隣へ——」
「え、あなたたちの目は節穴なんですか?彼女は異能を複数持ってますのよ?」
「……え、ちょっとまっっっっっったああああああああ」
それは知ってるけれども!それをこんな人が聞いてる前で言ったら——。
「おい……。お前は『神の欠作』の上に『忌子』なのか……?」
「救いようのない災厄だな……。教室から出てってくれないか?」
「で、デスヨネー……」
異能を複数持ってる人間は『忌子』と呼ばれ嫌悪の対象になるのだ。正直自分がそれだということは重々知っていた。
しかし、複数の異能を持つものを『忌子』と呼ぶことを知ってからは『瞬光羅閃』しか使って来なかったから誰にもバレてないはずなのに、なんで彼女は私の秘密を知ってるんだ?
焦る私と責め立てるクラスメイトと担任。その光景に彼女は首を傾げていた。
「みなさん、なんで彼女を嫌うのです?異能は強さと量で本質が決まるものですよ?こんな初歩的なことはひとつ前の学科で習うはずでは……」
そういうと担任は後ろからガムテープを持ってきて口を塞ごうとする。しかし——。
「奇襲とは、実践的な学校ですね……。嫌いではありません、よっ」
後ろに佇む担任はガムテープを後ろから巻き付けようとする不恰好な格好のまま動かない。そんな担任の頬に凄まじい回し蹴りを踵で食らわせる。するととてつもないスピードで吹き飛ぶ。
通り道をぎりぎり通っていなかった私は全く被害に合わなかったが、群がっていたクラスメイトは射程範囲内で飛んできた担任の餌食になっていた。
「あ、みなさん避けないんですね」
「普通避けないからっ!?」
つい突っ込んでしまう。その言動に私に嫌悪の視線を向けてくる。出過ぎた真似をしたな……。
「何お前如きがアリアさんに向かって——」
「あなたごときが彼女に口を聞かないでくれないでくださいな?せいぜい皆さん異能は1つで階級も5とか6程度でしょう?」
「それを言ったらこいつは1で——」
「い、1っ!?なんて有能な人……」
「え、えぇ……?」
もはや状況がぐっちゃぐちゃになってしまって理解不能になっていた。階級1の私が、有能?
「異能が複数ある場合、その場合においてのみ階級はより低い方が重宝されるんですよ……。あぁ、興味がそそります……っ」
全員その豹変ぶりに固まっていた。私はもはや状況理解が追いつかなくて脳がパンクしていた。何を妄想ぶいているのかわからない。
「とりあえず、担任の先生。彼女の隣に座ってよろしくて?」
「あ、あぁ……。構わない」
担任の諦めたような宣言を聞いて私も諦めることにした。どうしたって彼女はこの席にこようとしていたのだろう。なぜそこまで——。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね?」
「あ、はい……」
「敬語は、なしですよ?」
「う、うん……。それでさなn——」
私がなぜこの席を頑なにまで座ろうとしたのか。それを尋ねようとした時だった。
全員が質問にやってきたのだ。その一瞬のうるささに私は気を失いそうになった。これだから陽キャ共は……。
適当に質問が終わるまで待っておくか……。そう思っていたのだが。
「皆さん、もう少しお淑やかにできないんですか?鼓膜が破れそうです」
「……ストレートに言うね」
「あなたは別に今のままでいいですからね?」
「……左様で」
みんなが怨嗟の視線を送り出す。あぁ、私はある程度の日常生活を望んでるだけなのに……。
「それで、私に何か質問しようとしてませんでした?」
「あ、なんで……アリアさんはこのs——」
「あ・り・あ、ですよ?敬語使わないでくださいな。堅苦しいと気遣いしないといけなくなるじゃないですか」
「うん、アリア……。それで、なんで頑なに私の隣を願ったの?別にどこでも——」
「全員から欲望に塗れた視線を感じたから消去法的に最初は選びましたけど、あなたの異能適正を見たときに驚きましたのよ?まさかレベル10だったなんて……」
「……え、10???」
とりあえずアリアが私の隣にきたことによって私の生活が何やら嫌な方向へ向かっていってるのがわかった気がする。
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