第107話:高速移動

 セネカ達は準備を整えてギルドの前に集まった。

 すでに人が集まっており、ゼノン、ペリパトス、アッタロス、レントゥルス、ニーナ、ファビウスをはじめとして合計で三十人ほどいるようだ。


「ニーナとファビウス君も前線に行くの?」


「僕はゼノン様と共に行動しているだけだから、みんなを送った後でトリアスに帰ってくるよ。ニーナはペリパトス様付きだ」


 ニーナはニコッと笑った後、セネカに抱きついてきた。いつの頃からか会えばこうすることが多くなった。


「セネカ、私、強くなってくるね」


「私も強くなるよ」


「めけー」


「めけー」


 そうしてまた抱き合った。


「おい、マイオル。あれはなんだ」


「あたしに聞かないでくださいよ」


 見ていたアッタロスとマイオルは苦笑いを浮かべている。

 だが、おかげでみんなの余計な力が抜けた。


「刻限だ。これからトリアス大森林の奥地の入り口にみんなを送る。まずは潜伏せよ。その後、一時いっときを目安にペリパトスが開戦の合図を送るからそれを待て」


 そう言うとゼノンは地面に手をかざした。

 セネカ達を囲むように円形の線が出現する。


 セネカが何気なくアッタロスの方を向くと、アッタロスが教えてくれた。


「ゼノン師匠は時空間に干渉できる。これから俺らは高速移動してトリアス大森林に向かうんだ」


 その話を聞いてセネカは思うことがあった。


「ねぇ、ガイア、空間って⋯⋯」


 しかし、ガイアに声をかけた瞬間、ゼノンが低い声を発した。


「発動」


 びゅーん。


 浮き上がる感覚が発生したと思ったら物凄い速さで移動を始めた。速すぎて分からないが、身体にかかる力はそれほど強くない。


 あ、なんか慣れてきたとセネカが思い始めた時、ゼノンがまた言った。


「到着だ」


 すーん。


 気がついたら森林の中に立っていた。

 音も何もなく、突然そこに導かれたかのようだ。


「それでは健闘を祈る」


 そう言ってゼノンとファビウスはまた『びゅーん』と帰ってしまった。





 ペリパトス達と別れた後、セネカ達四人とアッタロス、レントゥルスは移動を開始した。


「俺たちはこれから回り込んで、スタンピードの流れに巻き込まれないようにする。マイオルには【探知】を使ってもらうが、ペリパトス様の合図が来るまでは最深部を探知範囲に入れないようにしてくれ」


 マイオルは頷いた。


「前衛は俺とレントゥルス。中衛にセネカとプラウティア。後衛はマイオルとガイアだ。全体的な指揮は俺が取るが、マイオルも副指揮官として動いてくれ」


「敵の攻撃は俺が【盾術】で防ぐが、乱戦となると判断が難しくなるだろう。その場合、マイオルとプラウティアはガイアの守りを優先してくれ」


「分かりました」


「お互いの情報はそれぞれ持っていると思うが、実際にやってみなければ分からないことも多い。騒ぎにならない程度に戦闘していくから、まずは動きを調整しよう」


 アッタロスとレントゥルスはスタスタと歩きながら大森林を進んで行った。





 セネカは前中衛的な位置どりでアッタロスとレントゥルスの戦いを見ていた。


 以前セネカとマイオルはアッタロスと森に入ったことがあった。あの時もアッタロスの凄さを目の当たりにしたけれど、かなり力を抑えた状態だったのだと今なら分かる。


 アッタロスはスキルを使う気配がなく、身体強化の技法だけでバッタバッタと強力な敵を屠っている。


 ここまでセネカが強くなったからこそ分かる高みが見えてきた。その高みは非常に遠いけれど、セネカは前よりもはっきりと見えるような気がしていた。




 レントゥルスは盾士だ。中型の盾を構えて敵を捌いている。


「俺の防御は特殊だから慣れてくれ」


 どういうことかと身構えていたらレントゥルスはスキルを使った。


「[盾球たてだま]」


 レントゥルスの横に二つの大きな球が出現した。溝がついていて、ぷかぷかと浮かんでいる。


「これは攻撃を引きつける。魔法も誘引するから範囲魔法でない限りは安心してくれ」


 セネカの目の前に来た盾球は静かに回転を始めた。


「俺は[魔力盾]のような巨大な盾を持たない。盾球は防御範囲が狭い代わりに耐久度と操作性が高いから、少数の防衛に長けているんだ」


 レントゥルスは盾球で魔物の攻撃を防いでみたり、球をぶつけて敵を蹴散らしたりし始めた。


 アッタロスとレントゥルスの息はぴったりでセネカ達の入る猶予は全くないように見えた。


「おい、お前ら、割って入ってこい。特にガイアとマイオルは俺とレントゥルスにぶつけるつもりで飛び道具を使うんだ。あとはこっちで合わせるから心配するな」


「がはは。そうだな。俺としてはちょっとぐらいぶつけられた方がハリがあって良いぞ!」


 セネカがマイオルを見ると、マイオルは息をゆっくり吐いてから弓を持った。

 マイオルの隣のガイアを見ると既にスリングショットを構えている。


 もう一度息を吐いた後、マイオルはアッタロス目掛けて矢を放った。

 アッタロスはまるで背中に目がついているかのように矢を避けて、魔物の動きを止めるのに利用した。


 そして流れるような動きで魔物を両断した後、わざわざマイオルの目の前にやって来て言った。


「まだまだだな」


 マイオルは「ムキー」と言いながらも集中力を高めていった。





 連携が取れるようになって来てから、アッタロスは攻撃方法を変えた。それは『切』という技法を利用する方法で、セネカとマイオルはアッタロスから手解きを受けている。


 身体強化に長けた者は、自分の体の次は武器に魔力を通わせることを覚える。その時、操作の起点は身体になる。身体を強くしようと思ったら剣も強化されてしまうし、剣を強くしようと思ったら身体も強くなってしまう。


 それを避けるために身体と武器の接続を切り、別個に操作する能力が必要になってくる。これが『切』だ。


 セネカは[魔力針]に火を纏わせるために『切』と似た技術を身につけていたので、アッタロスから話を聞いた後、すぐに『切』を習得した。


 今では刀と身体を分けて強化することができるので攻撃に幅が出て来た。

 セネカは自分の進歩を実感しているけれど、アッタロスはセネカのそんな技法が子供の遊びに見えるほど高度な技術を見せている。


 アッタロスは右手で火の剣を振りながら、手には氷をまとい敵を殴っている。足首から先に魔力を集めて蹴りながら魔法を放つこともある。おかげで弱点属性が違う魔物に囲まれても崩れる様子がない。


 アッタロスは戦いが落ち着くとまたマイオルのところに行って助言した。


「マイオル、『射』の技法を使ってみろ。レントゥルスに見せておきたい」


 『射』は中級弓師が使う有名な技法だ。剣などと同じように矢を強化してから『切』で切り離し、その強化を維持する。それにより、強く攻撃することができる。


 マイオルは言われた通りに矢を強化してから魔物を射った。本職には敵わないものの作戦に組み込むには十分な威力を示したので、アッタロスは満足気であった。

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