第4話:ハズレスキル
冒険者に登録できるのはスキルを得てからである。
多くの子供はスキルを授かったその日に登録する。
次の日の夕方に登録する子供は少ない。
セネカとルキウスは近場の森で良く獣を狩っていたし、薬草採取などもしていたのでギルドに幾人かの知り合いがいる。
だが、ギルドの受付を見てみても、今日は見知ったひとがいなかったので空いているところに並ぶことにした。
セネカの順番がやってきたので、冒険者の登録を行う。
スキル欄には【縫う】と書いたが、身分証がわりに登録を行う人もいるので特に何も言われず、冒険者カードに魔力を登録した。
セネカは青銅級になった。見習いの等級である。
ある程度実績を残すと鉄級になることができる。
銅級に上がると一端の冒険者だと認められ、生活水準も上がってくる。
銀級は一流の証だ。街に数人いるくらいが多く、ちょっとした有名人になる。
金級以上はなかなかお目にかかれない。大きな都市に行けば別だが、そうでなければ有事の際か偶然でしか会えない存在だ。
「よぉ、セネカじゃねぇか」
冒険者ギルドを出ようとすると、孤児院のノルトが絡んできた。
ノルトは他にピケとミッツを連れている。いつもの顔ぶれだ。
「お前、【縫う】なんていうハズレスキルなのに、まだ冒険者になるつもりなのか?」
「なるよ。ノルトもなったんでしょ?」
「あぁ、俺は【剣術】スキルを授かったからな。ピケは【短槍術】、ミッツは【水魔法】だ」
随分とバランスよくスキルを授かったのだなとセネカは思った。
「みんな冒険者用のスキルだったんだね」
「あぁ、お前と違ってな。どうだセネカ、俺たちのパーティに入れてやってもいいぞ? ハズレスキルだったらパーティを見つけるのも大変だろ?」
ノルトは胸を張って言った。
「ううん。大丈夫。私ノルトたちより強いし」
セネカはなんでもないことのように言った。
するとノルトは顔を真っ赤にして怒り出した。
「スキルを得て俺たちは強くなったんだ。セネカなんて簡単に追い越すぞ」
セネカはその言葉を挑発と受け取った。
見た目は美少女だが、セネカはとんでもない跳ねっ返りである。
「だったら私がノルトたちの力を見てあげる。孤児院に帰ろう」
「分かった。受けて立つ」
セネカは自信満々で笑顔を浮かべた。
腹が立っていたノルトも、その顔につい見惚れてしまった。
◆
孤児院に戻って、庭に出た。
ルキウス以外と戦う時は、孤児院にある削った木の剣を使う。
かろうじて剣の見た目を保っているが、実体は棒に近い。
棒振りセネカの本領発揮である。
公平公正なミッツが審判だ。
セネカとノルトが向かい合って構える。
「始め!」
ミッツの声が響いた。
ノルトが斬り掛かってくる。
セネカはいつものように受け流そうとした。
しかし、ノルトの振り下ろしが想像以上に鋭い。
セネカは一歩引いて回避することにした。
ノルトの木剣が空を切る。
セネカは体勢を整えて後詰めをしようとした。だが、ノルトは返す刀で二撃目を放ってきた。
それはセネカにとって大した攻撃ではなかったが、ノルトがそんな行動を取ってきたことなど、これまでなかった。
セネカはあえて半歩前に出て、ノルトの木剣の握り手近くを力の限り叩いた。
するとノルトの剣は打ち据えられ、受け流された。
ノルトもセネカも後退し、距離を取る。
「俺の剣はどうだ、セネカ」
セネカは答えなかったが、自慢気なノルトの顔が正直鼻についた。
しかし、強くなっていることは事実だった。
セネカは気を引き締めた。
そして身体を適度に引き絞る。
ノルトの呼吸を読み、隙を待つ。
ノルトが息を吐き切るタイミングを見計らって強く踏み出す。
遠い間合いにいたセネカがもう目の前に来ている。
ノルトにはセネカの剣が伸びてくるように見えた。
反射的に腕を上げて、固まってしまった。
セネカはノルトの横に回り込み、首に剣を向ける。
「そこまで!」
ミッツの声が響いた。
「ちくしょう!」
ノルトは剣を地面に投げつけた。
セネカの心臓はバクバクしていた。
うまくタイミングが取れたからよかったものの、乱戦になっていたら間違いが起きてしまったかもしれないと感じた。
ノルトの剣は力強くて、油断すると打ち負けてしまいそうだった。
ノルトは地団駄を踏んで悔しがっている。
「せっかく剣のスキルを得たのに、ハズレスキルに負けるなんて!」
セネカはノルトがハズレスキルと連呼するものだから、頭に血が上った。
納めていた木剣に手を掛ける。
しかし、影の薄いピケが前に出てきて言った。
「ノルト、冒険者に適さないスキルを得ている人はたくさんいるんだ。そう言い方をしていると、多くの人を敵に回すことになるよ」
その物言いは冷静でノルトもセネカも納得した。
だが、あまりにもはっきりと「冒険者に適さない」と言われたことでセネカはちょっと傷ついた。
「ちっ! 分かったよ!」
投げやりにノルトは言い放った。
セネカはピケに毒気を抜かれてしまったので、思ったことを呟いて大部屋に戻ることにした。
「ノルト、強くなった」
セネカは無意識に微笑んでいた。
三人の少年はその眩しい笑顔に当てられて、セネカがいなくなった後も、セネカが居た場所を見つめながら呆然と立ち尽くした。
◆
セネカは部屋に戻りながら考えを巡らせていた。
焦ったことも確かだが、実力が分かった今ならノルトと何回戦っても負ける気はしない。
それほど二人の強さには差がある。
けれども、ノルトがスキルを得て格段に強くなったことも事実だった。
セネカは自分が傲慢になっていたことに気づいた。
自分は追われる者になったのだ。
慢心すればあっという間にノルトに追いつかれる。
ノルトだけではない。ミッツだってピケだって有用なスキルを得たのだ。
実感していた差は、セネカが思っていたほどではなかったのかもしれない。
自分のスキルはやっぱりハズレスキルなのかもしれないとセネカは思って、ちょっと辛い気持ちになった。
しかし、この時のセネカは気が付かなかった。
ノルトが成長するのと同じかそれ以上に、セネカも自分のスキルを成長させられるということに。
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