第12話 愛
バイト終わりは私の退勤時間に合わせて、わざわざ車で迎えに来てくれるようになった。
靖って、こんなに優しかったっけ?と思わず錯覚するくらい。
靖のことは好き。
でも、なんだか心がついていけない時があった。
*
寝起き、新のことが夢に出てきた。
まだ頭がまわっていない状態で、隣の靖がもぞもぞと動いた。
ぎゅっと抱き締めてくれて、このまま優しい温もりに包まれていたかった。
靖のそばにいれば幸せになれるはずだったのに。
「新のことが好き……」
ふいに出てきてしまった言葉。
初めは、新の代わりでも良いと言ってくれていた。
少しずつで良いから好きになって欲しい。
時間が解決してくれるから、と言ってくれた。
数ヶ月経っても、私の中から新が消えてくれることはなくて、靖と一緒にいても、そのことが彼に伝わってしまったせいか二人で揉めることが多くなっていってしまった。
でも、靖が想ってくれているのは事実で、彼から離れられない。
「なんで分かってくんねぇんだよ」
言い合いがエスカレートした時、頭に鈍い痛みが走った。
つい涙が溢れ出してきて、止まらなかった。
「ごめん。こんなことするつもりじゃなかったのに……」
我に返った靖が溜め息をついた。
「俺、余裕ねぇわ……」
背中を向ける靖。
暫くの沈黙の後、後ろから新が抱き着いてきた。
「……ごめん。でも分かって?俺には恭花しかいないんだよ」
ごめんって子犬みたいな目で訴えてくる。
靖に暴力を奮われても、一度は惹かれた相手をそんな簡単には嫌いになれなかった。
ただ、日を重ねていくごとに、いつしか靖に対して怯えるようになっていってしまった。
こうした出来事が増えて、会いたいとも思えなくなってしまった。
あんなに安心できると思っていたのに、靖のひとつひとつの言動が行き過ぎていて、なんだか愛情表現が重たいと感じてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます