第12話 愛

バイト終わりは私の退勤時間に合わせて、わざわざ車で迎えに来てくれるようになった。

靖って、こんなに優しかったっけ?と思わず錯覚するくらい。

靖のことは好き。

でも、なんだか心がついていけない時があった。




寝起き、新のことが夢に出てきた。

まだ頭がまわっていない状態で、隣の靖がもぞもぞと動いた。


ぎゅっと抱き締めてくれて、このまま優しい温もりに包まれていたかった。


靖のそばにいれば幸せになれるはずだったのに。



「新のことが好き……」

ふいに出てきてしまった言葉。



初めは、新の代わりでも良いと言ってくれていた。

少しずつで良いから好きになって欲しい。

時間が解決してくれるから、と言ってくれた。



数ヶ月経っても、私の中から新が消えてくれることはなくて、靖と一緒にいても、そのことが彼に伝わってしまったせいか二人で揉めることが多くなっていってしまった。

でも、靖が想ってくれているのは事実で、彼から離れられない。



「なんで分かってくんねぇんだよ」


言い合いがエスカレートした時、頭に鈍い痛みが走った。

つい涙が溢れ出してきて、止まらなかった。



「ごめん。こんなことするつもりじゃなかったのに……」



我に返った靖が溜め息をついた。



「俺、余裕ねぇわ……」



背中を向ける靖。


暫くの沈黙の後、後ろから新が抱き着いてきた。



「……ごめん。でも分かって?俺には恭花しかいないんだよ」



ごめんって子犬みたいな目で訴えてくる。


靖に暴力を奮われても、一度は惹かれた相手をそんな簡単には嫌いになれなかった。



ただ、日を重ねていくごとに、いつしか靖に対して怯えるようになっていってしまった。



こうした出来事が増えて、会いたいとも思えなくなってしまった。



あんなに安心できると思っていたのに、靖のひとつひとつの言動が行き過ぎていて、なんだか愛情表現が重たいと感じてしまう。

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