第11話 別れ話


「別れたい」


ハッキリとそう言った。



「新のことがもう好きじゃない。気持ちがないのに、もう付き合い続けることはできない」


そう伝えると、彼はアッサリと身を引いた。


「分かった」


それだけ言って、深追いされることもなかった。


でも、つぎの瞬間に発した言葉に胸がドキリとした。


「あの男のことが好きなんだろ?」



まるで見抜いているかのようなセリフだった。

否定できなくて、そうだと肯定した。



「はあ……」



深い溜め息をついて、暫く黙った。



「仕方ねーな。俺よりあいつが良かったんだろ?」



胸が痛かった。

自分のした行為が裏切りだと捉えられてもおかしくはないとも思った。

暫く黙っていると、新の方から切り出された。



「俺、お前のこと沢山苦しませたもんな。ごめんな」


「幸せになれよ」そう言って、別れることに双方合意した。





靖に、新と別れたことを報告した。


「俺がいるじゃん。大事にするからね」と言ってくれた。


不思議と寂しさとかはなくて、ただ靖がそばにいてくれて良かったとさえ思った。


今思えば、新が他の女の人と一緒にいるところを目撃した時に、傍にいてくれたのも靖だった。


偶然かもしれないけれど、そうなる運命だったのかもしれない。とさえ思えた。




靖とは、友達のような感覚で付き合えた。

人となりを知っているからか、気心が知れた仲として愛が深まっていった。


一緒に暮らし始めても、大きな違和感はなかった。


「今日、何時に帰る?」


そんな当たり前の会話、日常の連絡。



靖からいくら愛を注がれても、ふと新と比べてしまうことがあった。


一緒にドライブに行った時、生活している時、一緒の布団の中にいる時。


彼とはこうだったな。と、ふいに思い出してしまうことがあって、なぜか自分の中から完全に新が消えることはなかった。



新は、あまり自分のことを話さなかった。


背が高く、格好良くて、憧れもある大人という印象。

連絡がすぐに返ってこないのも当たり前だったし、なにを考えているのか分かりにくかった。


そもそも仕事で忙しい人だったからな。


知らないことが多いから惹かれていたのかもしれない。



……あぁ、またこうやって新のことが頭をよぎる。


靖と一緒にいて幸せなはずなのに、新のことが頭から離れなかった。





何度か悩んで、靖にそのことを打ち明けた。

「時間が解決してくれるんじゃない?」とのことだった。

そうなのかなと思わないこともなかったけれど、靖がそう言うなら、そうなのかもしれないな。とも思えた。





でも、段々とすれ違うことが多くなってきてしまった。

靖と居ても、心の中に新がいて心から楽しめない自分がいた。



「恭花?」

「え?あぁ、ごめん……」



彼の話を聞き流すことが多くなって、ふと我に返った。

靖に迫られて、壁際まで追い込まれた。



「まだあの男のこと忘れられないの?」

「そんなことな……」

「じゃあ、なんだよ。お前全然俺の方見ないじゃん」



拳を振り上げられて、思わず顔を逸らした。



「……ごめん。俺、余裕ないよな」



冷静さを取り戻した靖は、私から離れた。



「靖、ごめん……」



後ろから彼の背中に抱き着いた。



「いや、こっちこそごめん」



靖は優しく頭を撫でてくれた。

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