第10話 境界線

「恭花、元気?」



 バイト先で靖とシフトが被って、久々に顔を見た気がした。



「うん」

「お前、本当に大丈夫?」


 笑顔で答えたのに、逆に心配させてしまった。


「元気出せよ」


 そう言って手を差し出して一口サイズのチョコレートをくれた。


「ありがとう」



 去り際に髪をくしゃりとされた。



「なんかあったら言えよ。すぐに相談乗るから」



 靖に段々と惹かれていくのに、そう時間は掛からなかった。

 心が靖に動く。誰よりも私を想ってくれているのが伝わってくるほど優しいから。


 頼ってくれていいからと言ってくれる彼に、助けを求められずにはいられなかった。


「俺んとこおいで」そう言う優しい靖に甘えてしまった。


 ただ、新から逃れたい一心だった。



 ◇



「俺、お前のこと心配だわ」


 部屋で靖と同じベッドの上で向かい合わせになって座った。


「ずっと悩んでた。恭花のことが心配で夜も眠れなかった」


 いつになく真剣な表情だった。



「……俺、恭花のこと好きなんだよね」

「またまたー」



 一瞬、冗談かと思って笑ってそう返したけれど、靖の変わらない真剣なまなざしを見て、冗談じゃないということは明白だった。

 近付いてくる顔を避ける余裕もなく、唇を重ねた。



「靖……」

「俺じゃダメ?」



 拒む隙も与えられないくらいにグッと身体を引き寄せられた。



「俺だったら、恭花に苦しい思いさせないよ?」

「そんな……」



 言い終わらないうちに、再びキスをして口を塞がれた。

 目の前の彼を拒めずに、靖に溺れていく自分がいた。



「俺のことも見てよ。彼氏の代わりでいいから」



 その言葉に、全身で陶酔した。


 思わず身体をゆるした。


 靖に心を奪われて、ただただ無我夢中だった。




 新から逃れたいはずなのに、簡単には別れられなかった。


 それは、これまでの関係性を完全に断ち切るのを怖れていたからだと思う。


 一人ぼっちになるのが怖かった。



 ◇



 全身で靖を感じる。

 新とは違う違和感が体の中に入ってくる。


 声を荒げて、思わず甘い吐息が漏れる。


 その声に彼も興奮したのか、強く腰を振ってくる。


 ズンズンと中に入ってくる刺激が、凄く官能的だった。



 ◇



 事後、ベッドですぐ隣にいる彼が発した。



「別れてよ」



 靖の言葉が酷く突き刺さる。



「俺からこんなこと言うの、格好わりーんだけどさ。

 俺だったら絶対に恭花に悲しい思いなんかさせない」



 一人になる訳じゃない。


 その安堵感と、真っ直ぐ伝えてくれた靖に気持ちが動いた。


 この人だったら信頼してもいいのかもしれないと心からそう思えた。



「……新に別れ話してくるね」



 *



 翌朝、新と話をするためにマンションへと向かった。

 彼に怯える日々が続いていたけれど、相手のペースに飲み込まれないように、きちんと向き合うつもりだった。


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