第5話 わだかまり

 私があの日見た綺麗な女性は、新の会社の大事な取引先の娘さんだということを聞かされた。


「仕事だから」、「向こうに気持ちは一切ない」、だから「浮気じゃない」。


 そう自分に言い聞かせて、彼の言葉を信じたいのに、あの日見た光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。



「恭花」



 いつものように新に迫られても、無意識に避けてしまう自分がいた。



「ちょ、やだ……」

「なんで?俺のこと嫌い?」

「嫌いじゃないけど……」



 近付く唇が、重なり合う。

 はっきり拒めなかった。

 私には新しかいなかったから。

 私が完全に拒否すると、新の心が離れていきそうで怖かった。



 *



「仲直りできた?」



 仕事中、靖から尋ねられて、ハッとした。



「仲直りしたといえば、した」

「そう。良かったじゃん」

「うん」



 でも、心の中のモヤモヤが消えた訳ではない。



 新は、相変わらず仕事で忙しい日が続いていた。



「今日、帰り遅くなるから」

「そっか。わかった」



 心の中でなにを思っているのかわからない。


 疑い深くなっているだけかもしれないけれど。


 彼のことが掴めない。


 ずっと一緒にいるけど、私は新のことをなにも知らない。



 *



 新が2週間の出張へ行くことになった。

 私は体調が優れず、彼を玄関で見送った後、ベッドで横になっていた。

 熱を測ると37.6℃あって、新にも連絡をした。


「大丈夫?」と心配されたけれど、薬を飲んで、安静にしているようにと連絡が返ってきた。

 なんだか動けないくらい身体がツラくて、バイトも休むことにした。


 暫く眠って目を覚ますと、靖からメッセージが入っていた。

 誰かに頼りたくなって、つい電話を掛けた。



「靖……」

「どうした?体調平気?」

「うん……。今日はごめんね、心配してくれてありがとう」

「全然。余裕だったわ。ゆっくり休めよ」

「ねぇ、お願いがあるんだけど……」

「どうした?」

「アイス食べたい……」



 どうしてもアイスが食べたくなったけれど、一人では買いに行けそうにもなかったので靖にお願いした。



「はあ?彼氏に買ってきてもらえば」

「今出張だもん。動けない……」

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