第4話 信じる
「昨日、大丈夫だった?」
恭花を部屋まで送った翌日、彼女とバイト先で顔を合わせた。
「ごめん、ありがとう」
「彼氏とちゃんと話できた?」
「ん。会社の人だって。気づいてたんだって言われた」
「そっか」
彼女からの返答を聞いても、なんの上手い言葉も見つからない。
「朝から仕事だったから帰ってまた話することにはなってるけど……もうだめかも。もう元には戻れないよ……」
今にも泣きだしそうな彼女の顔。
「そんな顔すんなよ」
なんだかいてもたってもいられなくて、彼女の髪をくしゃくしゃにした。
「良かったんじゃねぇの?」
俺は、開き直ったように明るい声で発した。
「疑ったままの方が嘘を塗り重ねていくことになるでしょ。だったらハッキリさせた方が良いじゃん」
「ん……」
「それとも、嘘付かれたままの方が良かった?」
すると、彼女は首を横に振った。
今にも涙が出そうになるのを堪えているように見えた彼女の頭を撫でた。
「泣くなよ?」
そう言った。
*
その夜、話し合うことになった。
私は、なにも聞きたくない気さえしたけれど真相が気になったのと新の口から直接話を聞きたかった。
「恭花が見た女の人のことだけど」
彼の口からそう切り出された。
「実は、上司から猛プッシュされている取引先の娘さんがいて、何度か上司と先方を交えて食事に行った」
新の説明を黙って聞いていた。
「彼女がいることも伝えたけれど、なんでも向こうに気に入られているみたいで、上手く断れずにいた。
何度か会ったけど、やっぱりこれ以上会うことに同意はできなくて、断ったんだけど、簡単に諦めてはくれなくて。
最後にその……キスしてくれたら諦めるって言われたから、その1回だけ応じた」
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのかは分からない。
いつもポーカーフェイスの彼からの表情からは、心情が読み取れなかった。
「でも、誤解しないで欲しいのは、向こうに対する気持ちは一切ない」
そう言い切る彼の言葉に嘘はないと信じたかった。
「あくまで仕事だから」
「じゃあ信じる」
そう言うことでしか、自分を言い聞かせられなかった。
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