第3話 核心

「おはよう」



 朝、目を覚ますと、ベッドの傍に座った新がいた。



「お前さ、昨日のこと覚えてる?」



 身体を起こすと、彼が静かに言った。


 ……昨日?なんだっけ。


 記憶を頭の中で駆け巡らせるけれど、頭が痛くて直ぐに思い出せない。



「ごめん、あんまり覚えてない」


「……だろうな」



 すると、呆れた様子で溜息をついた。



「飲んでたんだって?

 泥酔したお前を親切に男が家まで送ってくれたよ」



 ……靖だ。



「お前、酒弱いんだから飲み過ぎんなよっていつも言ってんじゃん」

「ごめん」

「昨日の男、誰?」

「誰って……ただのバイト仲間だよ」

「ふーん」



 なにか言いたげな彼の様子を察した。



「相談乗って貰ってて……」

「なんの相談?俺には言えないようなこと?」

「言えないよ……」

「あいつのこと、好きなの?」



 新の鋭い瞳でじっと見つめられた。



「違うよ」

「本当に?」

「本当だよ。私には新しかいないもん……」

「ならいいけど」


「新の本当の彼女って一体誰なの?」



 核心に迫るかのように、意を決して新に伝えた。



「は、なにそれ」

「この前、偶然見ちゃったの。街で新が女の人と歩いてるの」

「いつ?」

「バイト帰り」

「あー、それ。会社の人だよ」

「新って会社の人とキスしたりするの?」



 彼は弾かれたような表情をした。



「気づいてたんだ」



 その後、バツの悪そうな顔をした。



「そこまで見られてたんなら仕方ないな」



 仕方ないってなに……?



「……ごめん」

「それは浮気をしたことに対して?それとも、私が浮気相手だったことに対して?」



 謝られた意味が分からなかった。



「ちが」

「どういうこと?私、もう新のことわかんないよ……」



 すると、彼は言葉を詰まらせた。



「悪い、もう出なきゃいけない時間だから。帰ってから話そう」

 そう言って腑に落ちないまま、新は仕事へと向かった。




 *




 新とは、勤めている居酒屋で、来てくれたお客さんとして知り合った。


 テーブル席で厄介な酔っぱらいに絡まれているところを、偶然

 お手洗いに行こうと通りかかった新が間に入って助けてくれた。


 スーツ姿に身を包んだスマートで格好良い姿に一目惚れした。

 私が「お礼がしたいから」という口実で、なんとか連絡先を教えて貰った。


 ……我ながらよく積極的に聞けたと思う。仮にもバイトと客という立場なのに。


 それから教えて貰った連絡先に連絡をして、ご飯に行くことになった。


 お礼という名目だったけれど、結局、新の方が年上だったということもあり、奢って貰うことになった。



 それから何度か連絡を取り合い、向こうから告白されて、付き合うことになった。


 新は毎日のように仕事で忙しく、いつでも会えるからという理由から一緒に住み始めた。


 でも、気持ちがすれ違ってばかりで、もうダメかもしれない。

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