熟練のクズは乱数に愛されし令嬢すら溺れさせる



ありえません。

勝利は目前だったはずなのに。





「どうしてですかお爺さま!?

たかが傘下企業に中途入社したばかりの一社員、お爺さまの権限でどうにでもなるではないですか!」



「...ならん。佐藤優作(さとう ゆうさく)を辞めさせることはできない」




なんですかこれは。




「どうしてですか!?」



「無理なものは無理だ!そもそも、鞘よ。

お前に人事の権限など与えておらん。

確かにワシは孫のお前が可愛い。

よって今までもお前の頼みはできる限り応えてきた。だが、今回は無理だ」




ありえません。

私の勝利以外存在しないはずなのに。




「そんな....。お願いしますお爺さま!

もうこれからは何も頼みません!ですが、今回だけは絶対に叶えてもらわければいけないのです!」



「ならん」



ありえません。




「どうして!!...お爺さまは私が奴隷になってもいいのですか?」




そんなわけがありません。




「なんの話だ?そもそもお前は一体何をしたんだ?」



「...佐藤優作の息子、佐藤優と賭けを。

必ずあの男の口から吐かせなければいけないことがありまして。あの男の父親を人質に取ろうとしたところ、辞めさせれたら何でも言うことを聞いてもらう、辞めさせれなかったら私が奴隷になると。契約書にも記入しました」



「...ばかものが。やはりあの男の娘か。

諦めろ。ワシではもう、どうすることもできん」




こんなことがありえていいはずがありません。




「なっ....!?たかが傘下の一社員のために、孫が奴隷に堕ちても構わないと仰るのですか!?」



「いいわけがあるか!!このバカ孫め!

お前がそんな無謀な賭けをしたことが原因だろうが!」




嘘だ...




「そんな...」




「出て行きなさい」



「待ってください!せめて、せめて納得のいく理由を聞かせてください!」



「...いいだろう。ただし他言無用だ。

これは東堂家末代まで残る恥の話だ。

お前のせいで更に増えてしまったがな」



「...」



「お前の父親...元父親の三森剛三(みつもり ごうぞう)がやらかしたことが発端だ」



「お父さ...あの男ですか?」



「あぁ。あいつがワシの娘、お前の母親の早苗(さなえ)に婿入りしてきて、東堂グループの社長として働いていた頃の話だ」



そう言ってお爺さまが語った私の元父親の話は私にとって初耳であり、衝撃的でした。




先に前提として三森剛三の話をすると、元々やり手の投資家であり男児がいない東堂家に婿入りする形で加わった男であり、私の実の父親です。


そして役員としてグループに加わり結果を残し、お爺さまが会長の座に着くと同時に社長の座を受け継ぎました。


ですが私が中学生に上がる頃に、なにやら問題を起こしたようで離婚、退社。

会長のお爺さまがまた会長兼社長として返り咲くことになりました。



私としてもあまり父親からの愛情を貰った記憶はありません。その代わりお母様とお爺さまが沢山愛してくれたので離婚についてはそこまで気にしていませんでした。

それにお爺さまがすぐに社長として尽力したおかげで特に会社への影響もなかったはずですが...。



なんと剛三は元々持っていた資産での投資で大失敗してしまったようなのです。

そして東堂のお金を横領し使い込み、その全てを溶かした。

その総額は東堂グループが傾くほど。



勿論剛三は即解雇。ですが身内の犯行であり、東堂の人間として余りに恥ずかしく、秘密裏に処理されたようです。

...恐らくもう生きてはいないのでしょう。



その後、兼ねてよりお母様と親交があった世界でも有数の資産家の花菱燈(はなびし あかり)様の好意で、安い利子で大金を借金して何とか立て直した、ということでした。



「つまり...?」



「察しの通りだ。佐藤優作は花菱殿の紹介で入社している。そしてお前がくる前、ご丁寧に連絡を頂いたよ。佐藤優作を理不尽に辞めさせることがあるようならば絶対に許さないとな。その上で、賭けだのふざけた理由で辞めさせられるわけがないだろう。例えお前がどうなろうとも、ワシは、東堂は花菱殿に不義理を働くわけにはいかない」




あぁ。

あの男はこのことを知っていたのでしょうか?



視界が定まらない。

頭がまとまらない。

吐き気がする。

体に力が入らなくなり、

私は膝から崩れ落ちるしかなかった。





◇◇◇










「ありがとうございます、燈さん。助かりました」


「いいのよ。それよりも、2人の時は燈って呼んでって何度も言ってるじゃない。敬語もなしよ」


「いえ、でも今回は俺が無理を言って...いや、それで言うことを聞かなければ本末転倒ですね。わかったよ。ありがとう、燈」


「ふふ。物分かりのいいところ、好きよ。

可愛い優のためならこれくらいお安い御用よ」


「本当にありがとう燈...。綺麗だよ」


「んっ...はぁっ。 きて、優」






まぁ、そういうことだ。


この人は花菱燈さん。

33歳という若さで世界でも有数の資産家の女性だ。

170cmの長身に恥じない、完璧に磨き抜かれた身体は正直20代でも通じるくらい若々しく、スタイルも抜群でお世辞抜きに本当に綺麗な女性だ。


ちなみに彼女自身かなりの商才の持ち主でぐんぐん資産を増やしているが、実は元手の大半は死別した元旦那さんの遺産だ。

当時18歳にして80代の独り身の資産家と結婚し、そのわずか2ヶ月後に死別している。

その後20歳の時に70代の独り身の資産家と再婚。今度は更に早い1ヶ月で死別している。


...まぁ、色々と黒い噂の尽きない人だ。

少なくとも綺麗な人間ではない。




そんな彼女と俺の出会いだが、

実は中学3年生の秋にまで遡る。



モデルとしてある程度人気が出てきた頃、たまたま仕事で撮影を見学しにきていた燈さんに声をかけられた。

まぁ、今思えば燈さんがくるまでもないことだし、最初から俺に会うためだけにきたんだろう。



そして俺は燈さんのお眼鏡に叶ったらしく、その場で愛人契約を持ちかけられた。

今風に言うとママ活って言うのかな?



会うのは月1回。金額は言い値で払う。

期限は燈さんがもういらないと思うまで。



30を過ぎた大人が中学生に愛人契約を持ちかけるなんて倫理観に反しているが、前世芸能界で散々裏の汚い世界を見てきていた俺にとってはありふれた話だ。勿論飛びついた。



モデルとして躍進して行くためにも、両親のためにも、俺は目先の金額よりもとにかく燈さんに気に入られるように立ち回った。



その努力が身を結び、父親の再就職先も紹介してもらえたし、今回みたいなイレギュラーにも余裕を持って対処できた。



「んっ...。優、いいわぁ。素敵だわ。

もっと、もっと激しく...!」




ちなみにまだまだ俺は燈さんを転がすレベルには達していない。前世百戦錬磨だった俺だが、流石というべきか、燈さんは更にその上を行く。

この人とのセックスは一瞬の油断が命取りになるため、正直楽しむ余裕すらない。

俺の価値を証明するための戦いであり、常にギリギリで今日まで生き残り続けている。




とにかくこれで一応の決着はついた。

俺の両親を見下した東堂鞘は俺の奴隷と成る。



なぁ東堂。

確かに、お前の家は凄いよ。

親ガチャなんて言葉があるが、

それで言うとお前は父親にはケチがついているが爺さんと母さんだけで十分SSRだろう。


対する俺の両親は人間性はSSRどころかURのシークレットだが、確かに金銭面に関してはNや、よくてRくらいなのかもしれない。




だけどな東堂、知ってるか?

熟練のデュエリストはランダム性には頼らない。欲しいものは1枚1枚選んで手に入れるんだ。






残念だったな。







俺の最強のUR 燈ママの勝ちだ。





────────────────────



東堂「イワーーーーーーーーーーク!!」

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