佐藤君の自宅での日常



俺の一人暮らしする家は学園から徒歩15分のとこにある。

モデルとして人並み以上には稼いでいる俺だが、両親への仕送りにその大部分を割いているため、家賃には拘りを見せた。

そしてかなりの好条件のマンションを見つけていた。

1LDKで月7万円、最寄駅にも徒歩10分圏内であり、近くにコンビニもスーパーもありながらオートロック付きだ。


どうしてこんなに安いのか?

実は俺の住むマンションは事故物件なのだ。


とは言っても、俺の部屋で誰かが死んだわけではない。

じゃあなんで安いのか?

それはこのマンションから飛び降り自殺した件数が異常なのだ。

確か、7人が飛び降りたと聞く。


そんなマンションだ。いくら部屋で死んだわけではないとは言え、普通の家賃では誰も住みたがらない。

そんなわけで好条件、部屋で誰も死んでいない、安い家賃の事故物件が出来上がったわけだ。




そして俺は幽霊なんか気にしない。

そもそも俺自身、死んで転生したなんて半分幽霊のようなものだしな。

まあもう3ヶ月ほど住んでるが何も見ていないし、家に遊びにくるセフレ達も特に気にしたそぶりはないので大丈夫であろう。



◇◇◇



「うっわ、もう0時回ってんじゃん。明日土曜日でよかった〜」


ある日、撮影が長引いた帰り道でそう俺は1人ごちた。

かなり大がかりな企画があり、

打ち合わせや準備を念入りにした企画だったので学校を公休にして朝から一日中働いていて、俺はかなり疲れてしまっていた。



だからだろうか。

俺の住む階は7階にあるのだが、間違えて1つ下の階、6階でエレベーターを降りてしまった。


「ん?」


そして俺の部屋(だと勘違いしていた)の前で

一人で体育座りで俯く長い黒髪の女の子を見てしまった。



「うっ、うわああああ!」


めっちゃびびった。


「へっ!?!?なになに!?やだやだやだ!!!」


喋った。動いた。



「あぁ...生きた人間か...びっくりした...申し訳ない」


「は、はぁ....」


「あの、そこ俺の部屋だと思うんですけど...」


「はい?私の家ですよ」


「えっ?...あ、あぁ、6階だったのか。

すいません、俺上の階に住んでて、階を間違ってしまいました。それでは」


「ちょっ!ちょっと待ってください!」


「はい?」


「あなた、佐藤優さんですよね?遊嵐の1年生の」


「はぁ...そうですけど...サインですか?

すいません、今ちょっと疲れてて...また後日にでも...」


「ち、違います!私は遊嵐の2年生の高橋楓(たかはし かえで)と言います」


「あ、先輩だったんですね。同じマンションとは、奇遇ですね」


「私も驚きました...。ってそうじゃなくて!

あの、佐藤さん、初対面でこんなこと頼むのは気が引けるんですが、お願いがありまして...」


「はぁ...」


「あの、一緒に私の家に入ってもらえないでしょうか!」



◇◇◇



「ん〜。見て回った感じ、特に問題はなさそうですよ?」


「ほ、本当なんです!私、聞こえたんです!」



突然の自宅へのお誘い。

なんでそんなことになったかと言うと、

高橋先輩がリビングで寛いでいた時に部屋から誰かの話し声が聞こえてきたらしい。

だが高橋先輩は間違いなく一人暮らし。

そんなことあるはずがなく、恐怖を感じた先輩は思わず裸足で家を飛び出した。


だが、そこまで。携帯も財布も持たずに出てしまったことで身動きが取れず、かと言って一人で再び家の中に入る勇気も出ずに途方に暮れてドアの前で座っていたらしい。



「正直部屋の前にいるのも怖くて仕方なかったんですけど、もう遅い時間だったから外は暗くて怖いし...マンションの廊下だったら明るいから...。それに、裸足でしたし。

誰かに助けを求めようにも携帯もないし、外に出て全く知らない人に頼るのも違う意味で怖いしで....」



とのことで、初対面だが身元がハッキリしている俺に家への同行を頼んできたのだ。



「ん〜、でも本当に誰もいないですよ。大丈夫です、気のせいだったんですよ。それじゃ俺帰るんで」


「ま、ま、ま、まって、佐藤さん!お願いします!泊まっていってください!」


「えええ....」


「お願いします...1人にしないでぇ」



暗くて幽霊だと失礼な勘違いをした俺だったが、明るいところで改めて見ると高橋先輩はめちゃくちゃ美人だった。大和撫子系美人って感じ。

そんな子に涙目で懇願されてしまったら断れない。下心はない。断じてない。少ししかない。


「分かりました。ただ、ここだと着替えとかないんで、俺の部屋に泊まってくれませんか?」


「わ、わかりました!準備します!」



と言うことで俺の部屋に行くために先輩の準備を待って一緒に部屋を出ると、丁度同年代の男が隣の部屋に入っていくところだった。


「あれ、隣にも高校生っぽい人が住んでるんですか?」


「あ、そうなんです。同級生なんですよ。

話したこともないし会釈くらいしかしたことないんですけどね。

実はさっき一人でいた時、藁にも縋る思いでチャイム鳴らしたんですけど、不在だったんですね〜」


「隣の部屋に同級生とか、漫画みたいでちょっと面白いですね」


「まぁ別にただのお隣さんですよ」


...なるほど。つまり俺の帰りが後30分程遅ければこの面倒臭い状況を逃れられたのか。

本当、自分のタイミングの悪さを呪う。


「お邪魔しまーす」


「どうぞ」


何の警戒心もなく俺の家に入ってきた先輩。


「わ、お洒落な部屋ですね。男の人のお部屋、初めて入りました」


...通りで警戒心がないわけだ。


「お茶でも飲みますか?」


「ありがとうございます...」


一息ついて落ち着いたのか、軽く世間話を始めた。



「でも、佐藤さんは流石稼いでいるんですね。このマンション家賃高いのに...」


高いか...?ちょっと引っかかったが、まぁ高校生に月7万は十分に高いかと納得した。


「そうでもないですよ。

そういう先輩こそ、一人暮らししてるんですよね?」


「...私は、両親が過保護で。恥ずかしながら全部出してもらってるんです。じゃなきゃバイトもしてないのに月14万円も払えないですよ」



え?14万円?

先輩の部屋はさっき幽霊探しに見回ったが俺の部屋とほとんど違いはなかった。階数も下だ。え、もしかして事故物件だって知らない?悪い不動産に当たったのかもしれない...だが、それを言ってしまうと先輩が倒れてしまうかもしれない。俺が黙っていればいい話だ。他人事だしな。



「あ、風呂湧いたんで、俺入ってきます」


「えっ、待ってください!1人にしないでください!」


「...。じゃあ一緒に入りますか?俺は別に大丈夫ですけど...」



なんてな。

ってことで諦めて一人で待っててく...



「ふぇっ!?そう...ですよね。それしかないですよね...私も実はまだ入れていなくて...はい、あの、佐藤さんさえよければ...ただ、あの、タオルとか貸してもらえますか?流石に裸は恥ずかしいので...」


これもういいよね?自重する必要ないよね?



「はぁ...。先輩。俺は男です。先輩みたいな綺麗な人と一緒にお風呂なんて入ったら間違いなく我慢できません。いや、我慢しません。いいんですね?」


「き、綺麗な...そんなこと...。

えっと、我慢..ですか?なんのことかよくわからないですけど、私のわがままに付き合わせてもらっていますし、我慢しなくていいですよ...?」


「本当に我慢しなくていいんですね?」


「大丈夫です!」


「わかりました。行きましょう」


「はい。きゃっ、もう脱いでる..あの、先入っててください!後、向こう向いててくださいね...!」


「お邪魔しまぁ...って、えぇ!?なんでこっち向くんですかぁ!?」


「やっ、触っ...!あの、恥ずかしいです...」


「んっ!?キ、キ、キ、キ、キス!?やっ、だめですよう!」


「あっ、佐藤さん、一体なにを...って、

え、ええっ!?ちょ、あんっ。えっ?我慢ってそういうことぉぉぉ!?むぐっ!?や、だめだめだめだめ.....そこは...」



◇◇◇



ある夜、俺の家のチャイムが鳴った


「優さん、あの、またちょっと音が聞こえたような気がして。お願いしてもいいでしょうか?」


...あの日、流されるがまま俺に抱かれた先輩だったが、セックスした衝撃で幽霊への恐怖心が消えたらしくプンスカしながら熟睡した。

それを成功体験として認識してしまったらしく...。

怖くなったら俺に抱かれにくるようになった。



アホか。


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