第4話 学校に行こう
「今日のニュース見た?」
「見た見た、近くだったよね…」
「やばいよねー」
「くぁぁ…ねっむ」
ガヤガヤと騒がしい廊下を欠伸しながら教室へ歩いていく。
俺はよく妖怪達と関わっているが、普段は一般人と同じ生活をしている。
朝飯を食べて、学校行って、昼飯を食べて、帰って、飯食って風呂入って寝る。
そこらの人と何ら変わりない生活を送っている。
その合間に妖怪が関わってくるのであって、一日の大半は普通に一般人してるのだ。
「うーっす」
「お、はよー晴真」
2階の2年生の教室、手前から2番目のB組の扉をスライドして開けると、友人である
中学の時、明堂がとある妖怪のイタズラで階段から落とされそうになった所を俺が助けたのをきっかけに仲良くなった。
明堂は別に妖怪は見えないからバランスを崩して落ちそうになったところを通りがかった俺が助けた、と認識している。
まあ妖怪のせいで〜なんて言って変に話を拗らせる必要も無いし、実際助けたことは事実であるのでそのまま接している。
頭もそれなりで運動も出来る、そして誰に対しても分け隔てなく接する奴だからクラス内外問わず人気が高い。
そして顔も整っているもんだからまぁモテるモテる。
本人に自覚は無いし、付き合うつもりもないとは言ってるが玉砕されていく女子を見てると心が痛まなくもないし、何より嫉妬の念を向ける男子達に理解の意を示したくなる。
はよ誰かと付き合ってくれりゃ明堂玉砕の会なんて不名誉な集団も生まれなかったろうに。
さらに言えば明堂は俺と仲が特に良く、いつも俺とばかり話しているらしい為、そっちの気があるのではという噂も立っている。
それに関して言えば俺は完全に巻き添えを食らっているわけだ。
俺にその気はないとここで明言しておこう。
俺と明堂の席は離れてて、俺のは窓際、明堂のは正反対の廊下側にある。
だから俺が自分の席に座ろうとすると、その後を明堂は追うように着いてきて、ホームルームまで駄弁る。
大体いつもそんな感じだ。
「今日の宿題やってきた?」
「流石にな。数学だろ?武松《たけまつ》やってこねぇとブチ切れて授業どころじゃなくなるだろ。てかそんなんでよく教師やれんなって思うわ…」
「あはは…やってくれば計算ミスとか回答で間違っても怒らないからあの人は。そういう所はちゃんと教師してると思うな」
「まぁそりゃそうだが」
さて、こうして話をしている訳だが、この際に気をつけることは廊下や外を見ないこと。決して明堂から目を離さないことだ。
明堂が何かする訳では無い。これは自衛だ。
なぜならちょっと首を動かすだけで俺の視界には奴らが入ってくる。
そう、妖怪だ。妖怪はありとあらゆる所に居る。
校庭、廊下、教室にまで。ぶっちゃけ明堂の背後にももう既になんかいる。
ただ向こうが見られてると感じない限り、好戦的な奴以外は特に何もしない。
人間だって誰か知らない奴からじっと見られるのは嫌だろう。それと同じだ。
だから気になっても見ない。イタズラされても気にしない。
絡んできた時だけこちらからアクションを取る。でも出来るだけ学校内で揉め事は起こさない。
中学の時に失敗して、クラスから浮いてしまった経験からそういう立ち回りを身につけた。
浮いた時にも話しかけてくれた明堂にまで迷惑はかけたくない。
そのお陰か明堂繋がりで俺に話しかけてくれる奴も男女問わず何人かいる。
その度にこいつの人望はすげぇなって思うんだよな。
「あ、そうそう聞いてよ晴真。なんでも近い内に転校生が来るらしいよ」
「転校生?随分と変な時期に来るもんだな…もう5月だぞ。4月の入学に間に合わなかったんかな」
「んーまぁ僕もたまたま職員室の前を通りがかったら聞こえた話だから詳しくはよく分からないんだけど」
転校生ねぇ。
腕を組み、うーんと唸りながら考えてしまう。
最近の妖怪を始末してる人間、さらには転校生。
自分の周りでなんか動いてんなぁ〜ってのはわかる。
その2つの物事に妙な接点を見出してしまっているが、普通そこ同士に繋がりがあるとは考えられない。
ま、偶然時期が重なっただけだろう。そう思っていた方が気楽だ。
明堂は目を輝かせながら俺のほうに身を乗り出して、
「転校生ってどんな人なのかな?!仲良くなりたいね!」
と陽キャの極みみたいなことを宣い出す。
そんなに近づくな。
「あー、まぁお前なら仲良くなれんだろ。うん」
「他人事みたいに言って〜晴真は気にならない?」
「気になるも何も情報ゼロなら気になりようがねぇからなぁ。そん時に考える」
「んーそれもそっか」
それに基本俺は自分から関わりに行かないからそんなに興味が無い。
このクラスに来るかも分からないし。
「あ、今日お昼どうする?購買?」
「んあーいや、食堂。うどん食いてぇうどん」
「いいね、じゃあ僕もそれにしよ」
適当に駄弁ってると担任が入ってくる。
もうそんな時間か。
明堂はまた後でね、と席に戻り、俺も自分の席に座る。
こうしていればこの通り、俺も普通の高校生だ。
本当だったら友達と一緒に部活したり遊んだりしたいのだが、どうやったって妖怪という存在がそれを阻む。
考えてもみろよ。他の奴らは触れないからいいとして、俺は触れてしまう。
だから歩いてる時に道端の妖怪とぶつかったりすることもある。
その時傍から見れば俺は何も無い空間とぶつかってるパントマイム野郎になってしまう。
それで変な風に見られるのは
やはり妖怪に触れてしまうのが一番ネックになっている。
何とかしたいが、氷景さん曰くそういう体質の人は殆ど見た事がないらしく、解決策も分からないらしい。
まぁ妖怪に人間の体質を聞いてどうするのよと言われればそれもそうだが、身近に妖怪関連で頼れるのが氷景さんしか居ないのも事実なのだ。
「…妖怪始末してるやつがなんか知ってるといいな」
積極的に会いには行かないが、そんな万が一に思いを馳せて、俺の一日は緩やかに始まっていくのであった。
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