1000歳の誕生日
そうま
「今日はおじいさんの1000歳の誕生日だからね」
そう言う父に連れられ、私たちは家族総出で国立病院の地下にやってきた。
面会室でしばらく待機することになり、私は部屋の隅の長椅子に腰を下ろした。
今日1000歳を迎えるおじいちゃんは、私からみてひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおじいさんに当たるらしい。私の隣で、おじいさんにする挨拶の練習をしている父は、「ひい」の数を間違えないよう、指を何度も折っては戻している。
私と父と母のほか、おじいさん、ひいおじいさん、おばあさん、ひいひいおばあさんもこの部屋にいる。それ以上年上の人たちは、自立歩行していないか、もしくは既に亡くなっているか、家から出るのが面倒だから、などの理由で欠席している。
「失礼します」
面会室のドアが開き、看護士が一人、台車を引っぱって入ってきた。台車の上には、金魚を一匹飼えそうな大きさのガラスケースが置いてあり、その中にしなびた脳味噌が入れられていた。
「面会時間は5分です。それ以上は、彼の命に関わりますので、強制的に回収します」
看護士の説明をうけ、私たちは順番に、ひい……おじいさんに挨拶を始めた。
ひい……おじいさんのように1000年も生きる人は珍しく、多くの人は300年を過ぎると死んでしまうらしい。もっとも、その原因のほとんどは、脳を保存しているケースの管理を怠る医療ミスらしいが。
私に挨拶の順番が回ってきた。かねてから聞きたかったことを質問してみた。
「ひい……おじいさん。1000年も生きていて、飽きませんか?」
すると、ひい……おじいさんの横に取りつけられている電子画面に、ゆっくりと文字が映し出された。最近はもっぱら九九の暗唱を日課にしているらしい。が、5の段以降は思い出せないという。
挨拶を済ませると、看護士が矢のように飛んできて、ひい……おじいさんを回収していった。私たちは、面会室を後にした。
父はできるだけ長生きしたいらしく、脳だけになっても会いに来てよね、と私によく言う。でも、たぶん、父が脳だけになった時、私はこの世にいないだろう、とも思う。
1000歳の誕生日 そうま @soma21
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