第8話 狩人登録

 俺の言葉にゲインさんが答えようとした時に……


 その人は現れた……


「フフフ、随分と威勢の良い奴だな。先ほどの言葉は聞かせてもらった。良かろう、もしもゲインに勝ったならお前をC+で登録してやろう。俺はこの狩人ギルドの長でバルスという。今は引退しているがA-狩人だった」



 まさかのギルド長さん来襲。まあ、いくらゲインさんがここの最高位だとしても俺をC+にして登録する権限なんてないだろうからこちらとしては有難いんだけど…… 単なる意地で言っただけって今さら言ってもダメなんだろうなぁ……


「ギルド長! 貴方まで俺が負けるとでも?」


 ギルド長であるバルスさんの言葉にさっきまではカッと熱くなっていたゲインさんが冷徹な雰囲気に変わってそう問いただす。

 あちゃー、作戦失敗だぁー。カッカッさせて大振りしてもらえたら俺の特典で何とかなるって思ってたのに……


「フフフ、そうは言ってないぞゲイン。だがお前が負けたならそういう事になるかな?」


 バルスさんが煽るように言うとゲインさんは怒りながらも冷静になってしまった。うん、危険だ俺の命が…… 誰か助けて……

 チラッとシーナを見るとグッジョブポーズをしてやがる。グッジョブ違うわ!!

 今まさに俺の命が危ういというのに……


「それでは俺が審議をしてやる。2人とも存分に戦え。あ、一つだけルールを言おう。ゲイン、攻撃魔法の使用は許可するが中級までな」


 ウォイッ! 魔法攻撃許可って俺に死ねと仰るのですか、バルスさん!? 


「フン! こんなガキ相手に魔法なんかは使いませんよ。この木剣で骨を折る程度で始末をつけますよ」


 ホッ、良かった。魔法は無しなんだ。なんだ、ゲインさん、意外といい人…… じゃないよな。俺の骨を折るって言ってるし……


「ん? まあお前がそれで良いなら構わんが。それじゃ、始めろ、2人とも!」


 バルスさんの投げやりな開始の言葉でゲインさんはさっさとケリをつけようと木剣を振りかぶり俺に向かって振り下ろしてきた。背中のオオカミ並みに早い!


 が、ここでも特典が仕事をしてくれた。俺の右手はゲインさんが振り下ろす木剣を柔らかく受止め左に流した。それにより体勢を崩すゲインさんの身体を俺の左手はそっと押す。すると……


「ウオオオーッ!!」


 ゲインさんが派手に転がっていくではないか! これにはやった俺も呆然としてしまった。審議するバルスさんも目が点になってるし、野次馬たちもレナを含めてシーンとしている。唯一シーナだけが俺に向かってグッジョブポーズだ。


 結局訓練場の端まで転がったゲインさんは直ぐに起き上がれず、俺の勝利がバルスさんによって宣言された。


「勝者、チカラ! 約束通りにチカラはC+として狩人登録をする! みんな異論はあるか?」


 バルスさんが煽るように野次馬たちに聞いたけど誰からも異論は出なかった。ちょっとホッとした。これで認めるかーっとか言って誰かが出てきたらチビってしまうからな。あ、受け流せるのか……


「よーし、それじゃチカラよ。登録手続きに行くぞ!」


「はい、ギルド長」


 俺はそのままバルスさんに着いていきギルド建屋内に入った。受付にいるキレイなお姉さんの元に向かおうとしたらバルスさんに止められた。


「オイオイ、何処に行くつもりだチカラ?」


「えっ? 狩人登録に受付に行くつもりですけど?」


 バルスさんに問われた俺は素直にそう言ったのだが、却下されてしまった。

 

「お前は俺の権限で最初からC+で登録するんだから受付嬢じゃ無理だ。俺の執務室に行くぞ。レナとシーナ、2人も一緒に来てくれ。コイツと出会った時の話が聞きたい」


 いつの間にか俺の後ろに居たレナとシーナも呼んで俺たちはバルスさんの執務室へと入った。


 で、何の事はない。俺たちが入った後に受付嬢さんがやって来て俺のカードをサクッと作ってくれた。何だよ、受付嬢さんでも登録出来るじゃないか!!

 と思ってたら俺の手にカードは渡らずにバルスさんの手に行く。するとバルスさんは自分の机に向かい、その上の機械? 魔道具? に俺のカードを差し込んだ。


「この魔道具は俺、つまりギルド長しか使用できないようになっていてな。これで俺の権限でチカラをC+に認定したと本部への連絡も兼ねているんだ。よし、出来たぞ。これでチカラはC+狩人として登録された。そのカードが身分証明代わりになるから無くすなよ」


 クッ! 空間収納が芽生えてくれてたら…… と俺は思ったけど無いものをアテにしてもしょうがないから素直にハイと返事をして受取りズボンのポケットにねじ込んだ。


 そこからバルスさんはレナとシーナの方を向き俺と出会った経緯を聞き出す。


 その途中で俺は思い出した。


「そうだ! 買取り、バルスさん、買取りって直ぐにしてくれるんですか?」


 俺の言葉にレナとシーナも思い出したようだ。そして、シーナが何も言わずに俺の背の荷物に掛けていた魔法を解いた。


「ウォッ! ブラッディウルフじゃねぇか! どうしたんだ、これ?」


 そこで俺は森で迷ってる時に襲われて撃退した事と、3頭倒したけど1頭しか担げなかったから1番大きいのを担いでここまで来たことを伝える。


 その話を終えた後にバルスさんはレナを見る。

 

「チカラは嘘を言ってないわよ、ギルド長」


「そうか…… レナがそう言うんならそうなんだろうな。買取りは直ぐにするぞ。他にも何かあるか?」


 そこで俺はアクビの実を3つ出した。


「ふぅ〜…… アクビの実までか。これは依頼も出てるからその依頼をチカラが受けた事にしておくか。実績になるしな」


 そこでバルスさんは机の上のボタンを押した。十秒後に扉がノックされてバルスさんが入れと言うとエプロンをつけたおネエさんが部屋に入ってきた。


「あら〜ん。可愛い坊やがいるじゃない。何よバルス、ワタシに貢物かしら?」

 

「違うわ、バカ! そっちのブラッディウルフとアクビの実を買取りだ。査定して金を持って来い」


「フンッ、何よ、仕事だったのね。坊や、良かったら今晩ワタシとご飯なんてど〜う?」


「いえ、あの、ご遠慮しておきますです、ハイ」


 俺は即座にお断りをいれた。


「ベンちゃん、ダメよ。チカラはシーナのツバつきだから」


 とレナが突然にそんか事を言う。


「アラ? シーナちゃんの好い人だったのね。それじゃ諦めるしかないわ〜。さ、それじゃ査定してくるわ」


 そう言うとベンさんはブラッディウルフとアクビの実に手をかざした。すると二つとも消えた。

 おお! これはもしや空間収納では!?


 俺が興奮していたらレナからツッコミがきた。


「コラコラ、さっきの私の発言を聞いてよく冷静でいられるわね。シーナには興味なしなの?」


 レナの言葉を聞いて2人の方を見たらシーナが涙目になってた。

 えっと…… 本気ですか? ドッキリとかじゃなくて? 産まれてこのかたモテたことが無いから実感がわかないんだが。


「いやあの、そうじゃなくてだな。俺は女の子と付き合ったりした事がないし。この見た目だからな、俺に気があるなんてにわかに信じられないというか…… さっきのレナの言葉もベンさんの誘いから俺を助ける為に言ってくれたんだと思ってたから」


 とゴニョゴニョと言い訳をしてたらレナがシーナに


「シーナ、良かったね。脈がないわけじゃないみたいよ」


 と言っていた。それにニッコリと笑ってシーナは俺に向かって言う。


「エヘヘ、先ずはお友達からお願いします」


 それはこちらも願ってもないことだから俺はシーナの差し出した手をギュッと優しく握ってお願いしますと言ったのだった。

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