第5話 やっと見つけたけど

 それから歩くこと10分。勿論、オオカミはちゃんと担いでいる。チカラは気がついてなかったが、このオオカミはこの森の生態系の頂点に位置するので、他の魔獣や魔物がその匂いを嗅いで、チカラに近づかないのだ。

 それを知らずにこの森は生き物が少ないなぁと思いながら呑気に歩くチカラ。すると、祖父に教えて貰った事のある、アケビによく似た実を見つけた。但し、あくまで【よく似た】である。果たして食べられるのかどうか……

 チカラは躊躇しながらも取り敢えず食べようと手に取った。


「状態異常耐性なんてのも知らない間に出て来てたし…… 良し、食うか」


 意を決して実を口にするチカラ。


「おおーっ! アケビだよ、コレ。ほのかに甘いのも一緒だし。汁気はコッチの方が多いな」


 思ったよりも美味しかったので、チカラは5個を腹におさめた。それから、3個をポケットに入れてまた小川に沿って歩き出す。木々の間隔が段々と広くなってきたから、森もそろそろ抜けられそうだと思いながら歩いていたら、前方に人影が見えた。2人居るようだ。


 チカラに背を向けて、自分たちの前に向かって武器を構えているように見える。チカラは急に声をかけて驚かしてはいけないと、そーっと足音を立てずにユックリと2人に近づいた。


 一方、ゴブリン6体と対峙している2人は、油断なく武器を構えていたが、ゴブリンがジリジリと後ろに下がりだしたので不審に思っていた。


「シーナ、気をつけて。何か仕掛けてくる気かも」

「ええ、レナ。分かったわ」


 実はゴブリンたちはチカラが担いでいるオオカミの匂いを感じ、自分たちが殺されると思い逃げようとしていたのだが、2人にはそんな事はわからないので、何かの作戦かも知れないと勘ぐっている。


 チカラが2人の直ぐ後ろにたどり着いた時には、ゴブリンたちは背を向けて一目散に走って逃げ出していた。それを見た2人は、


「逃げた?」

「レナの鬼の形相に恐れをなしたのね!」

「ちょっと、シーナ!」

「冗談よ、レナ」


 と、掛合漫才かけあいまんざいを始めたが、チカラはもう大丈夫だろうと考えて2人に声をかけた。


「あの、ちょっとゴメン。道を教えて欲しいんだけど……」


「「キャーッ!!」」


 2人の悲鳴が木霊こだました。その悲鳴に驚いてチカラも声を出した。


「ウワーッ、ど、どうしたっ!?」


 2人は振り向きざまにチカラに対して武器を構える。そして、チカラの抱えるオオカミを見てまた悲鳴を上げた。


「キャーッ! ブラッディ・ウルフ!!」

「な、何でこんな森の入口にっ!!」


 へー、ブラッディ・ウルフって言うんだこのオオカミ…… 等とチカラは思いながらも2人に必死に言う。


「あ、あの、お、俺は別に怪しい者じゃなくて、気がつけばこの森に迷い込んじゃってて、森を抜けて人が居る場所を目指してたんだけど、道が分からなくて……」


 必死にそう言うチカラを不審者を見る目で見詰める2人の少女。しかし、レナと呼ばれていた少女が構えていた剣をおろし鞘にしまった。


「嘘は言ってないみたい…… 大丈夫よ、シーナ」


「そう、レナがそう言うなら……」


 もう一人、シーナという少女も杖をおろした。それを見てホッとするチカラ。


「それで、貴方はどうしてブラッディ・ウルフの死体を抱えているの?」


 レナがチカラにそう聞いてきた。


「あ、ああ森の奥で群れに襲われたんだけど、何とか3頭を倒したら、他は逃げていったんだ。で、一番体の大きかったコイツは売れるかなと思って、ここまで抱えてきたんだ。俺、無一文だから……」


 チカラが正直にそう言うと、レナが


「ハア? 倒した? ブラッディ・ウルフを、貴方が? 嘘でしょう?」


 とそう言い、続いてシーナが、


「あの、嘘を吐くならバレない嘘の方がいいわよ。ブラッディ・ウルフはこの森の深部に群れで住む魔獣で、この森の頂点に位置するの。単体ランクはBランクで群れだとAランクなのよ。狩人ハンターランクが最低でもB+じゃないと一対一では倒せないと言われているわ」


 詳しく教えてくれた。だが、チカラは倒した事に嘘は無いんだけどなー…… と困った顔をしていたら、またレナがチカラを見詰める。そして、


「驚いた、シーナ! この人、嘘を吐いてないよ!?」


 と、大きな声で言ったのだった……


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