秦の誓い

楚の群臣、太子を立てる

　楚（そ）の大臣たちはこの事件を憂（うれ）えました、そしてみなでどうしようかと謀（はか）って言ったのです。

「吾（わ）が王は秦（しん）におられて還（かえ）ることができなくなってしまった。しかも強要されて地を割（さ）こうとされている。そして太子は齊（せい）に人質となっておられる。齊と秦が示（しめ）しあって謀略（ぼうりゃく）をめぐらせば、楚の国は滅んでしまうだろう」そして王子の国にいるものを立てようとしたのです。

　先に出てきた昭睢（しょうすい）が意見しました。

「王と太子がどちらも諸侯（秦・齊）の国にあって困（くる）しんでおられるのに、今、それを置いておいて王命に倍（そむ）いてその庶子（しょし）を立てようとは、よいわけがないではないか！」

　そして王が秦に囚（たら）われていることを隠し、お亡（な）くなりになったと触（ふ）れて齊に赴（おもむ）きました。王が亡くなられたので、太子に楚にお戻りになられたい、そう齊に求めたのであります。

　齊の湣王（びんおう）は群臣を召してこのことについて協議しました。或（あ）るものは言いました。

「太子をとどめて、楚の淮水（わいすい）の北の地域の割譲（かつじょう）を求めましょう」

　当時、楚は淮水流域にあった陳（ちん）、蔡（さい）の諸侯を亡（ほろ）ぼし、汝（じょ）の地域（汝水（じょすい）流域か？）を開拓し、越（えつ）を亡ぼして越の保持していた旧・吳（ご）の土地すらも合わせて領土を拡張していました。

　そして古（いにしえ）の徐夷（じょい）（徐の地域の夷（えびす）と呼ばれた蛮族）の地も楚の地になっていました。それらは淮水という河（かわ）の北の、楚と齊の間の緩衝（かんしょう）地帯であり、領有権が行き来していました。楚ではそれを「下東国（かとうこく）」？という名称で呼んでいたとされます。この者は、その土地の支配を確定させようとしたわけです。

　齊の相（しょう）はこの意見に反対しました。

「なりません！郢（えい）（楚の都）のものが別に王を立てれば、吾（われわれ）は空（むな）しく人質を抱（だ）いて不義を天下に行うことになります」

　その淮北を太子と交換しようといった人はさらに主張しました。

「そうではございません、郢のものが王を立てれば、それにつけこみ楚の新王に市（う）って（取引して）申せばよいのでございます、『我（我が国）に下東国を与えよ、そうすれば吾（われわれ）は王（あなた）のために太子を殺そう。そうでなければ、まもなく齊、韓（かん）、魏（ぎ）の三国は一緒に太子を立てるだけだ』、と」

　そう意見したのです。

　しかし齊王は卒（つい）にその相（しょう）の計を用いて楚の太子を帰しました。楚の人はこの太子を立てました。

　ああ、めでたしめでたし、なんと哀（あわ）れな楚、なんてひどい秦、なんてやさしい齊でしょう。

　え？ええ、私は公平には書きたいと思っています。しかし、この事件には、よく考えてみると、不自然なことがたくさんあるのです。