③サイクロプスの生態(前)

《白い一角獣亭》の粗末な机に腰掛け、酒を飲んでいると、聞き覚えのある声が響いた。


「観察屋、久しいな!」


エドだ。


キマイラの件以来、彼とは飲み仲間のような関係になっている。


肩をバンバンと叩かれ、あまりの痛さに文句の一つでも言おうと振り向くと、俺はエドの姿に驚き、声を失った。


彼は深手を負っていた。


顔を痣だらけにし、左手を三角巾で吊り下げ、左足も松葉杖で支える始末。


それでも、酒場に繰り出すあたり流石だと言うべきか。




「ガハハ!このくらいの傷、大したことない。酒でも飲んで、血の巡りを良くすればすぐ治っちまうよ。」


いつもの大笑いで、鯨飲する。


それより、俺は怪我がどうしても気になって仕方ない。


ついに尋ねようとした時、エドが神妙な顔をする。


「この傷が気になるか?まあ、それを話す前に……サイクロプスって知ってるか?」


俺は記憶をさぐる。


サイクロプス…ギリシャ神話をベースとした単眼の巨人。凶暴な性格と強大な力で非常に危険なモンスターだ。


興味が無いといえば嘘にはなる。


俺はエドの話に食いついたのは当然の成り行きだ。






そして、俺は今、都の北方の森林地帯を俺は馬に跨り進んでいる。


エドの話では、この付近に数体のサイクロプスが住み着いているらしい。


人の往来の多い街道も近いことから討伐の依頼が出されているが、情報が少ない。


そこで俺に話が来たということだ。




依頼内容は、数と住処の把握。


周囲を慎重に確認しながら進んでいく。


何か痕跡はないものか…。


ふと微かな異臭を感じる。


俺は臭いのする方向へ馬を進めようと手綱を握る。


しかし、馬が進まない。


何かに怯えるように暴れてしまう。


これは何か怪しいな…


俺は馬を手近な岩に繋ぎ止めて、歩みを進めた。




異臭はだんだんと強烈になり。鼻を塞いでも耐えられなくなってきた時に、それは目の前に広がっていた。


大量の糞便や骨、食べ残しなのか腐敗した肉片も堆積し、蝿が飛び交い、ウジやゴミムシ等が蠢いている。


ほとんどは獣だが、明らかに人間のものであろう骨、衣服も混じっている。




それにしてもヤバイ、臭すぎる!


体がデカイ分、糞尿や残飯も大量だし、食性のせいか臭いも強烈だ。


俺はメモ帳に現在地を記し、書き添える。


《サイクロプスは糞尿、残飯等を特定の位置に廃棄する》


《生肉を食する。主に、鹿や猪、熊、人間等。》


周囲を探索し、サイクロプスの通り道と思われるものを何本か見つけたが、臭いが漂うような位置には住処はないようだ。


まあ、それは当然だよな。


わざわざ汚物をまとめるくらいなら、そんな場所のそばには住まない。


しかし、どうしたものか…


サイクロプスを探して歩いて、先にこちらが見つけられるのはマズいよな。

気配隠匿は気配を消すだけで姿が消えるわけでも、身体の臭いが消臭さるるわけでもなく、存在感を低下させるのみである。



ここは、奴らが現れるのを待って尾行する作戦でいくか。

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