②ユニコーンの生態(後)
夜、トランはユニコーンの角を求めて、テントに繋がる幼馴染のカーラの家に忍び込む。
ユニコーンを手懐けた乙女が彼女だったことは、考えなかったわけではない。
「だが、金が必要なんだ。カーラも分かってくれるはずだ。」
自分に言い聞かせて。
一方、そのころ俺は…酒場で酔っていた。
ユニコーンの講釈を酔いつぶれた見知らぬ老人がにしながら。
「ユニコーンはな、心清らかな純潔の乙女にしか気を許さないんだよ。」
酔いつぶれた老人は、「分かる、分かるよ〜」と赤ら顔でユラユラ揺れながら頷くと、酒をあおる。
恐らく全く聞いてないだろうが、まあいい。
「そして、もし悪意ある者が近づくと猛然と襲いかかるという。」
「うんうん、分かるよ〜…」
「ユニコーンの角を狙う人間も多いからな…、まあ正当防衛だよ」
「…分かるよ〜…」
「いつか俺も乙女になってユニコーンを飼えたら、定期的に角を削って売るんだ。そしたら、貧乏暮らしともオサラバだ!」
「……zzz」
「それからな、ユニコーンは…」
夜は更けていくが、まだまだ話は止まらない。
トランは、カーラの部屋で静かに眠る純白のユニコーンを前に小剣を手に持ち立ちすくんでいた。
彼は自分の本当に必要なものは何なのか分からなくなってきていた。
ユニコーンの隣にはカーラが寝ている。
昼間も思ったが、別れた時よりもずっと大人っぽくなり、綺麗になった。
「…やはり、出来るわけない…」
トランはカーラの髪を撫でる。
そして、そっと部屋を出た。
翌日、俺は二日酔いの吐き気に耐えながらベッドから這い上がる。
何やら、外が騒がしい。
二日酔いに効くと名物の自家製トマトジュースを持ってきた宿の女将によると、なんでもユニコーンがいなくなったという話らしい。
まあ、日々あれ程の衆目に晒されれば、ユニコーンもさぞかしストレスが溜まったんだろうな。
そんなことを考えながら、トマトジュースを一気に飲み干した。
美味っ!!
村長は呟く
「そういえば昨日、酒場で会った乙女になりたいなどととぬかす妙な男が言っていたな…、ユニコーンは賢く神経質だと。人語を理解し、感情を読み取り、人の気配に敏感で寝ていてもすぐに気付かれるとな…」
「やはり村おこしに利用しているのに気付かれて、逃げてしまったのかのう…。」
カーラはユニコーンの角の欠片を握りしめ、消えたユニコーンがいないか辺りを懸命に探した。
彼女が朝、目覚めるとユニコーンの姿はなく、代わりに角の破片が落ちていたのだ。
遠く都へ旅立った恋人の名をつけた、かけがえの無い存在であるユニコーン…。
本当は、もう戻ることはないのだと心のどこかで気付いている。
角の欠片が落ちていた正確な理由は分からないが、それが置き土産なのだと直感的に理解していた。
だが、ついに見つからずに彼女は村へ戻っていく。
宿屋の前に差し掛かった時、フードで顔を隠す男にすれ違った。
どこか懐かしい雰囲気を感じ、カーラは振り返る。
すると、男も振り返ってカーラを見つめていた。
慌てて足早に立ち去ろうとする男。
「トラン…」
無意識に恋人の名を呟いてしまう。
男は少し躊躇い、ゆっくりとフードを外した。
暫く後、都に小さな店が出来た。
田舎料理が売りの小さな酒場。
名前は《白い一角獣》亭。
夫婦で切り盛りする酒場はなかなか美味いと評判だ。
俺はというと、あのトマトジュースが気に入り、土産にたんまり買い込んで帰途についた。
フフフ、思いがけない収穫だ。
なんだか物足りない見世物だったが、終わり良ければ全て良しってね。
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