①キマイラの生態(後)
男は名をエドと名乗り、歳は35程だという。
無精髭を生やした浅黒い肌の戦士。
若くして旅に出て以来、放浪しながらモンスターを倒すことで報奨金を得て暮らしているらしい。
今回のキマイラも旅人や商人を襲うことで懸賞金が掛けられていたそうだ。
「観察屋、まさに危機一髪だったな。キマイラを探していたら、丁度お前さんが眠らされるのを見たんだよ。まあ、そのお陰で俺も獲物に集中してるキマイラに不意打ちを食らわせられたんだがな。」
ガハハと大笑いしながら、煙草を燻らせる。
「お前さんの言った通りだったよ、何かに意識が向くと頭が3つとも同じとこ向きやがる。普段は3つの頭で警戒してて、うかつに近寄れねぇからな。」
「エドさん、もしかして…それ狙いで隠れてチャンス伺ってたんじゃ…?」
率直な疑問がつい口を出る。
「ん?まあ、助かったんだから細かい事は気にするな!それと、エドさんって呼ばれ方は性に合わん、エドでいい。それより、死体で調べたいことがあるんだろ?」
確かに、俺は絶体絶命の場面を助けられ、しかもキマイラの構造まで調べるチャンスまで貰えた。
これ以上は求めすぎだ。
俺はキマイラに近寄り、まずは外観から観察していく。
ふむ、ライオン部分は立派なたてがみがあるし、やはり雄だよな。
身体にも男性器が付いているし。
雌のキマイラなんて聞いたことないけど、繁殖はどうするんだ?
まあ、魔法で作られるから繁殖はしないのかな…。
じゃあ、何のために作られたんだ?
護衛…とか?なら、これは逃げ出した野良キマイラってとこか?
しかし、そう思うと可哀そうな奴だよな。
無理矢理に合体させられた挙げ句、生物の目的である繁殖も出来ないなんて…。
まあ、感慨にふけるようなとこじゃないか。
さてさて、身体の中はどうなってるんだ?
俺は大ぶりのダガーで解体をしていく。
…
まずは消化器。
どうやら、食道は分岐してライオンとヤギの口に繋がっているようだ。
まあ、そうじゃないと唾液とか溢れちゃうもんな…。
身体がライオンで草は食えないから、ヤギは何も食べれないのかな、可哀そうだ…。
蛇は腸で繋がってるのか…、食道もだけど分岐してると逆流しないのか?
呼吸器は、蛇は単独で呼吸器が揃ってるみたいだな。
というか、尾が充分な長さがあるから、大体の臓器はついてるようだ。
ヤギはライオンと肺が共用か…、まあ、スペースもないしヤギ単独の臓器は何もなさそうだ。
じゃあ、どうやって呼吸タイミング合わせてるんだろう。
呼吸中枢は2つあるわけだし…。
ヤギが魔法唱えてる最中にライオンが息吸っちゃったりして詠唱失敗しないのか?
それでライオンと喧嘩になったりして…、速攻で負けそうだけど。
本当に不憫だな、ヤギ。
そもそも、なんで合成されてるんだろうか。
明らかに一匹だけ毛色違うよな……。
ヤギだから魔法使えるわけじゃないだろうし、ただの造った奴のイメージとかで何となく合成されただけだろ……
俺は時間を忘れて没頭していたが、エドのわざとらしい咳払いで我に帰る。
もう太陽が西の山に沈もうとしていた。
「観察屋、仕事熱心なのはいいが…。そろそろ…な。お前も付き合わないか?」
エドがグラスを傾ける仕草で、ジェスチャーしてくる。
確かに、もう暗くて良く見えなくなってきている。
酒を飲みながら、エドの冒険譚を聞くのも楽しそうだ。
「ところで、その観察屋ってのは何だか嫌だな。俺の名前はシンヤ。宜しくな。」
「おお、良い名だな観察屋!」
エドは豪快にガハハと笑った。
ああ、そういえば生態について触れてなかったな。
あれ、ライオンだ。
キマイラの生態は、群れない雄ライオンとほとんど同じ。
だって元々のライオンが体を動かしてるんだもんな。
以上!
俺の気分はもうキマイラから酒場に向かっていた。
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