①キマイラの生態(中)

久しぶりのプーコットの実のあまりの美味さに、俺は周囲への警戒を怠ってしまっていた。


キマイラからの距離は相当あり、油断していたのだ。




俺がふとキマイラの寝ていた方向を確認すると、そこには既に姿はなかった。


どこだ?!


目を離した時間は僅かだ。


だが、すぐにハッと気付いた。


風向きが変わっている。


キマイラに気付かれた可能性がある。


そして、気付かれたとしたら奴は…




突如、上空からバサバサと音を立てて、落ちるようにキマイラの巨体が舞い降りた。


そう、キマイラにはコウモリの翼も合成されている。


身体のサイズを考えると飛べるはずもないのだが…、ドラゴン同様に魔力による補助を行っているのだろうか、詳しくは原理は不明だが奴は飛ぶことが出来る。




突如として目の前に現れたキマイラは、3つの頭を俺に向け、大気を震わせて吠えた。


俺の戦意(元々ないが)を挫くには充分すぎる迫力だ。


何とか護身用の小剣を構え、パニクる頭で必死に逃げる方策を巡らせる。


ヤギの頭が何か呟きだした。


奴らの言葉は理解できないけど、あれは魔法だ!


獅子は兎を狩るにも全力とか言うけど、魔法なんてなくても俺なんて一撃じゃないの?


なんて考えていると急に身体が重くなり、逆らえない眠気が襲ってきた。


…眠らせて…逃さない…のか…




薄れゆく意識の中、キマイラが悠然と歩み寄るのが見える。


そういえば、本当にキマイラの頭は全て声を出せるんだな…


そんな状況にそぐわないことを考えながら、意識は途切れた。








ガキンッ!


グオオォォ!!


金属音と獣の唸り声で俺は目が覚める。


まだ鈍い思考が状況を理解しようと、必死で回転させる。


何故、生きている?


その答えは目の前にあった。




蛇頭の尾を失ったキマイラの爪を盾で受け流しながら、剣をキマイラの腹に付き立てる冒険者風の男がいた。


「よう、観察屋!お昼寝から目覚めたかい?」


あの時の冒険者!


ああ、神よ!まさかあの話は本当だったのか。




男は剣を引き抜き、一旦キマイラから距離を置く。


怒り狂うキマイラは唸り、全速で男に飛び掛かる。


そこからの勝負は呆気なかった。


飛び掛かるキマイラを紙一重で避けた男は、両手で振り上げた剣でヤギの頭を切り落とし、キマイラの背に飛び乗るとライオンの首筋に剣を突き立てる。


グワァァッッ!!


激しく暴れ、男を振り落とそうとするキマイラ。


男は剣に更に体重を掛け、深々とキマイラの首筋に沈めていく。


ズブブ…!


そして、剣の柄の辺りまで剣が埋もれた時、とうとうキマイラは動きを止めて地面に崩れ落ちた。

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