「はい。あーん」

 と言って日和は箸で摘んだ甘い卵焼きを林太郎の口の(本当にすぐ)前まで持ってきた。

 仕方なく林太郎はその卵焼きを「いただきます」と言って、ぱくっと食べた。(すると日和はすごく幸せそうな顔をした)

 日和は背負ってきた今は自分の座っている白い椅子の隣にある空いている椅子の上に置いている水色のリュックの中から銀色の水筒を取り出した。

 その水筒にくっついているカップを二つ取り出して、そこに日和は飲み物を注いだ。

 飲み物は冷たいお茶のようだった。

「どうぞ。粗茶ですが」と言って日和は林太郎のカップを渡した。

「どうも、ご親切にありがとうございます」

 と言って林太郎はそのカップを受け取った。

 林太郎がそのお茶を飲んでいるときに、少し強い風が遊園地の中を吹き抜けた。

 その風の吹いてくる方向を日和は見る。

 そこにはなにもない。

 それから日和は青色の透き通っている美しい空を見た。

 その空の中には赤い風船があった。

 きっと遊園地に遊びにきていた家族連れの子供たちの中の誰かが、風の中で手放してしまった風船だろうと日和は思った。

「猫の絵なんだけどさ、描いてみようと思うんだ」

 と林太郎は言った。

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