「絵って、あの子たちの絵?」

 と林太郎を見て日和は言った。

「うん。まるとさんかくとしかくの絵。描いてみようと思った」と小さく笑って林太郎は言った。

「そう思った理由は?」日和はいう。

 林太郎は少し考えてから、「実は最初からまるとさんかくとしかくと出会ってから、ずっとあの子たちのことを絵にしてみたいって、そう思っていたんだ。自分でも不思議なくらいに強い気持ちでそう思った。寝起きだったけど、意識も一瞬で覚醒したし、こんな気持ちになったのは初めてのことだった」

 と珍しく饒舌な口調で林太郎は言った。

「ふんふん。それで?」

 と身を乗り出して日和は聞く。

「でも猫の絵っていうのは、僕にとってすごく特別なものなんだ。日和はもちろん知っていると思うけど、おじいちゃんが唯一残した風景画以外の絵が猫の絵なんだ」

「猫の神様だよね」日和はいう。(林太郎はうなずく)

「そう。猫の神様。だからどうしても、猫の絵っていうのは僕にとって特別で、まだ未熟で自分の絵のスタイルも、目指す場所も、技量も、数も、失敗も、なにもかもが足りていない今の僕が描いてはいけないような気がしていたんだ。でも、それでもまるとさんかくとしかくと毎日を過ごすようになって、この子達のことを描きたいって、そう思い続けてしまうようになったんだ」

 と林太郎は言った。

「そう思うなら、描けばいいじゃん」と当たり前のように日和は言った。

「うん。お母さんもそうすればいいんじゃないって、そう言ってた」と日和を見て、にっこりと笑って(すごく吹っ切れたような表情をして)林太郎はそういった。

 その林太郎の笑顔を見て、日和はその顔をほんのりと赤く染めた。

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