猫の神様の中に描かれている年老いた猫を実際に日和は見たことがなかった。(それは林太郎も同じだった)

 年老いた猫は林太郎のおじいちゃんがずっと可愛がっていた猫で、林太郎が生まれてから、すぐに亡くなってしまったそうだった。(林太郎のおじいちゃんはそのことを、とても悲しんでいたようだった)

「どうぞ」

 と言って林太郎は日和におまんじゅうとお茶を出してくれた。

「どうもありがとうございます」

 そう言って、丁寧に頭を下げてから、日和は遠慮せずに、林太郎の出してくれた小さな餡のたっぷりと入った甘くて美味しいおまんじゅうを一口でぱくっと食べた。

 林太郎は自分の椅子に座ると、そこから段ボール箱の中にいる三匹の小さな子猫たちを見つめた。

 その目はいつもの穏やかな林太郎の目とは少し違った。

 絵を描くときの、対象となるものや風景を見るときの、研ぎ澄まされた、少し攻撃的な雰囲気のある(林太郎らしくない)目だった。

「林太郎くん。この子達の絵を描いたりもするの?」

 と日和は言った。

「ううん。描かない。僕が描くのはおじいちゃんと同じ風景画だから」と優しい目をした林太郎は言った。

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