「お邪魔します」

 そう言って日和は襖の空いた空間を通って、林太郎の部屋の中に入った。

 林太郎の部屋にはたくさんの絵が飾ってあった。

 それらの絵を描いたのは林太郎のおじいちゃんで、そのたくさんの絵の中にはまだそれらの絵には及ばない、未熟な(と言っても日和から見れば、その絵もすごくうまくて魅力的な絵だったのだけど)絵がいくつかあった。

 その絵を描いたのは林太郎だった。

 林太郎のおじいちゃんはそれなりに有名な画家で、(全国的には名前を知られていないけれど、地方ではそれなりに有名な人だった)林太郎の夢はそんなおじいちゃんのようにいつか画家になることだった。

 久しぶりの林太郎の部屋の中に入って、いつもと変わらない空気と雰囲気を味わいながら、日和はきょろきょろと林太郎の部屋の中を観察した。(子猫たちも同じように見慣れない景色に目を奪われていた)

 林太郎の部屋の中には日和の大好きな一枚の絵があった。

 その絵の題名は『猫の神様』という名前だった。

 描いた人はもちろん、林太郎のおじいちゃんだった。

 その絵は一匹の年老いた猫を描いた絵だった。

 年老いた猫は古い家の縁側にいて(その家は林太郎の住んでいる家だった。その絵に描かれている縁側ももちろん今もちゃんと家の一階にあった)目を瞑り床の上に、うずくまって小さくまるまっていた。

 ただそれだけの絵だった。

 でも、日和はその絵が子供のころからなぜかずっと大好きだった。

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