猫の神様

雨世界

1 あのね、ねこ、貰ってくれない?

 猫の神様


 どこに行ったの? ほら、怖くないから、出ておいで。


 坂下日和と間宮林太郎くん


 あのね、ねこ、貰ってくれない?


「林太郎くん、猫、好き?」

 にっこりと笑って、中学一年生の坂下日和は、同じ一年二組の教室に通う(自分の幼馴染でもある)間宮林太郎の座っている机の前で、そう言った。

「別に好きじゃない。普通だよ」

 本を読んでいた林太郎はめがねの奥からにやにやしている日和を見て、そう言った。

 そんな日和の顔を見て、林太郎はすごく嫌な予感がした。(こういった顔は、日和がなにかめんどくさいことを考えているときにする表情だったからだ)

「『まるとさんかくとしかく』って言う名前の三匹の三つ子の兄弟の子猫なんだ」とにやっと笑って日和は言う。

「まるとさんかくとしかく」と林太郎は言う。(三匹の三つ子の兄弟の子猫の顔を思い浮かべるようにして)

「うん。三匹ともオスの子猫。とっても可愛いんだ。本当だよ」とにっこりと笑って日和は言う。

「うち、猫、これ以上飼えないんだ。いや、一匹だったらよかったんだけど、三つ子だったの。だから、猫もらってほしいの。一匹でもいいから」

「一匹でもいいから?」

「そう。お願い! 林太郎くん! 猫、貰ってくれない?」両手を合わせて、神様にお願いをするようにして、日和は林太郎にそう言った。

 すると林太郎は少し考えてから、「その三匹の猫って、三つ子の兄弟なんだよね?」と日和に言った。

「うん。そうだよ。三つ子の兄弟猫。ついこの間、生まれたばかりなの。すっごく可愛いよ」と日和は言う。

「ほかの人は、あんまり貰ってくれそうもないの?」

「うーん。一応、何人か貰ってくれそうな人もいるんだけど、……もし、できたら、林太郎くんに貰ってほしい。それも、……可能なら、三匹一緒に」と日和は言う。だんだん要求が無茶になってくる。(あるいは、本音が漏れてくる)それは日和にはよくあることだった。

「どうして?」日和を見て林太郎は言う。

「林太郎くん。動物に優しいから。それに、猫のこと、詳しいでしょ? あと、家がすごく近いし」日和は言う。

 なるほど、と林太郎は思う。どうやら日和は三匹の三つ子の兄弟猫の面倒を、(あるいはその愛らしい姿や表情を)これからも自分でもみたいと思っているようだった。

「一匹だけじゃなくて、三匹一緒に?」

「じゃないと、かわいそうでしょ? 兄弟なんだし。三つ子だし」日和は言う。

 林太郎は悩んだ。(それはいつものことだった)

 でも結局、最後には日和に三匹の子猫の写真を見せられて、最終的にまるとさんかくとしかくという名前の三匹の子猫を貰うことにした。(林太郎が家に連絡してみると、お母さんは「いいよ。別に。ねこ好きだし」と言ってあっさりと三つ子の猫をもらうことを了承してくれた)

 そのことを日和に伝えると、「本当! どうもありがとう!! 林太郎くん。今度、絶対、なにかお礼するね!」と日和は満面の笑みで林太郎に言った。

 顔を赤くした林太郎は、「……別にお礼なんていいよ。猫をもらうのはこっちなんだし」と日和に言った。 

 そんなやりとりが二人の間であったのは、今週の土曜日のことだった。

 林太郎の家に三匹の子猫を入れたダンボール箱を持って、坂下日和がやってきたのは、そんなことがあった次の日である、日曜日の午前中の朝の早い時間のことだった。

 ピンポーン、と言うチャイムの音を聞いて、林太郎が寝起きの姿のパジャマ姿のままで玄関先に出ると、そこには元気いっぱいの表情をした、三匹の子猫がいる、みかんの絵が描かれているダンボールを両手で持った私服姿(デニムのオーバーオールだった)の坂下日和が立っていた。

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