死闘?

(俺の覇道に障害は多いほどいい、ククク…)とでも言っているのだろうか、

歩きシーテケは次第にその動きがこなれてきて、

サモ13世の棍棒術に対応し始めていた。


それに加えこちらが使う棍棒は打撃である。

シーテケの弾力性を越えて傷つけるのは困難を極めた。


「サモ閣下、シーテケは肉厚です、きっと生半可な打撃では役に立ちません、

 ですが…いくら2足歩行で格闘術を学ぼうと。あれはシーテケ…

 何か方法があるはず…そうか!」


ナズーはまるでネズミのように身を低くして、

二人の戦いの中をかいくぐって歩きシーテケの足元までたどり着く、

新手の存在に気付いたシーテケが拳を飛ばすが、

シーテケの背の高さが災いして、身を低くしたナズーには届かない。


シーテケはその弾力を生かして柄を捩じるように回転させ、

その反発力から強力な打撃を生み出せるが、これは水平方向に限られる。

縦の高さに対しては体をねじることができないどころか、

腕の長さ以上には打撃を繰り出せないようであった。


(思った通り、シーテケには腹も胸もない、縦の動きには対応しずらいんだ。)


ナズーは滑り込んだ先でタントウを歩きシーテケにねじ込み、一気に持ち上げる。

すると、白磁のようになめらかな柄は、繊維に沿ってするすると裂けていく。

その裂け目に対してナズーは両手をねじ込むと、左右にかきわけるようにして

力を込めて、一気に開いた。

するとどうだろう、裂け目はさっと上下に伝わっていき、

巨大な傘まで到達してばっくりと裂けてしまった。

どう、真っ二つに裂けた歩きシーテケが地面に落ちると、

さっきまで暴れ回っていたのがウソのように動かなくなった。


「勝った…のか?」

サモ13世が残心の構えをとりながら取りつぶやいた。


「しかしあれはいったい何を?あれだけ弾力性のあるシーテケを

 いとも簡単に切り割いてしまうとは…」


「…あれは、シーテケ農場で試食した時のことを思い出したんです。

 ほら、シーテケは繊維にそって引っ張ると、勝手に切れていったでしょう。」


「なるほど、歩きシーテケと言えどシーテケ、その特性までは換えられない、か。

 ナズー殿に助けられましたな。

 しかし、この歩きシーテケ、一体どこから現れたのやら…」


「…あっ、入り口の丸太。」


「あっ。」


入り口の補強に使われていた古い丸太があった。

そういえばシーテケも古い丸太に生えるのだった…。

きっとあそこからシーテケが生えて、ダンジョンのエーテルにあてられて

モンスター化したのだろう。


サモ13世はこれはどうしたものだろう、と考え込んだ。

これだけ危険なモンスター、いや、シーテケだが…そんなものが出るダンジョンでは

練習場としての価値はより下がるだろう。

ロクなものが出ないうえに、不釣り合いに凶悪なシーテケが住み着いたとなれば、

わざわざ大金を払ってここまでやってくる奇特なものなど、存在しないだろう。


「練習用どころか、実戦に慣れてるはずのシルバー冒険者まで

 やられてしまいましたな…これではダンジョンとしての価値は殆どないのでは?

 巨大なシーテケを戦利品とするわけにもゆきますまい。」


「確かに…強い割に何か落とすわけでもないとなると‥厳しいですね。

 しかし、今はそれよりも、冒険者達の様子を見ましょう。

 場合によっては、体勢を立て直した方が良いのでは。」


「そうでした、治療師の息があるとよいのですが。」


応急手当の心得があるナズーを中心として、手当てを行ったが、

冒険者たちは幸いにも昏倒しているだけだった。

シーテケ特有の弾力のせいだろうか?歩きシーテケの拳には、

衝撃力はあっても、そこまでの破壊力はないのだろうか…。

へこんだ盾や甲冑を嘆くアイアン級冒険者たちに、

マーゴは箔が付いたと思えと鼓舞していた。


とはいえ、負傷はしたのだから、念のため、ナズーは探索を打ち切ろうとしたが、

意外にもそれに異を唱えたのは冒険者たちだった。


もう少し探索して、何か値段がつけられるようなものを物を持ち帰らないと、

とても割に合わないという事だった。

アイアン級冒険者の一人、盾と剣をもっていたカマセーという青年は

特にそれを気にしているようだった。


「サモ領はあまりに店とか無さ過ぎなンだよ。

 普通、俺たち冒険者が遠出するときは、カバンに必要な道具を詰め込んだら

 その隙間に取引に使えそうなものを忍ばせておくのが普通でね、

 染料とか酒、針とか布、宝石みたいな、軽くて高い値段がつくような奴をな。」


「単純に土産にするっていうのもあるけど、やっぱ小遣い稼ぎにはなるんだよな、

 荷物の隙間に入れてる程度の量なら、がっつり商売している行商人達と違って、

 俺らは税金とられることもそうそうねぇからな。」


「なるほど、冒険者もそういった商取引をしているんですね…

 その視点はありませんでした。」


ふむふむと帳面にメモを取っていたナズーは、

ふと何かに気が付いて、口元に手をやって考え込んだ。


「ダンジョンの評価としては、訓練施設としては使えなくもない、

 というところですが…ひとつ気になることが。」


「何でしょう?ナズー殿。」


「イナズンさんの報告では、このダンジョンにはコボルドが居るはずですが、

 彼らの姿を見ません。一体何があったのかと思いまして。」


「歩きシーテケにやられちまったンじゃねぇの?コボルドって小さくて

 そんな強い奴じゃねぇし。」


「いえいえ、小さいなら、なおさら無事なはずです。」


「そいつはどういうことだ?」


「先ほど戦った様子ですと、歩きシーテケは自分より低い身長の相手を

 苦手とするようでした。きっと胴体が長く、太すぎるせいで、

 屈むことが出来ないためかと…。」


「なるほどな、ていうか、それが解ってりゃ次は不覚を取らないぜ。

 まあ相手の動きを見ようとしてたら、いきなりぶっ飛ばされちまったがよ。」


「話を戻しますが、ナズー殿が言わんとするところは…、

 歩きシーテケはコボルドが不得手、一方コボルドも歩きシーテケには

 決め手を持たなかった、それで均衡状態にあったと?」


「はい、ですのでコボルドさんたちを探して見つけることができればな、と。

 ちょっと調査の為に確かめたいこともありまして。」


「ふむ、でしたら先へ進んでみましょう。

 冒険者たちも名誉挽回といきたいでしょうから。」

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