冒険者たちの到着

サモ13世が口裏合わせの具体的な策を思案していると、

冒険者を雇い入れに行ったカランが屋敷に帰ってきた。

連れてきた冒険者は全員で4人。アイアン級の冒険者が3人と

シルバー級の冒険者が1人だった。


アイアン級の冒険者たちはまだ年若い様子で、装備も革製のジャケットに

金属製の補強が入った程度の軽装だった。

装備は斧使い、剣と盾、そしてローブを目深にかぶった治療師か…。


一方、シルバー級の冒険者はというと、帝国の古参兵が着るような、

上半身を覆う板金鎧に、バイザー付きの重兜。

その中には、深いしわの刻まれた老兵の顔があった。

獲物は年季を感じさせる細かい傷の入った金槌…

冒険者になる前は帝国兵だったのだろうか?

いやはや、シルバー級とは言ったが、

シルバー人材を連れてこいと言った覚えはないのだが…

まあうちの出せる金では新人と退役兵、

この程度の人材しか集まらんという事だろう。


「ご苦労だったカロン、冒険者の皆様は明日、こちらのナズー殿を護衛して

 ダンジョンの調査を行ってほしい。

 調査はナズー殿が行う故、諸君らは脅威となるべき存在の

 迎撃を行うのが主となるだろう。」


「それは、深部まで行かないって事でいいんだよな?

 どんなダンジョンか詳しくも聞いてないし、

 一番槍となると危険が付きまとう。正直不安しかないんだが…。」


冒険者たちの中でリーダー格らしい、剣と盾をもつ青年がこちらに問いかける。

疑問はもっともだが、こちらも情報が少ないのだ。

しかしここでゴネられても困るし…

ダンジョンを発見したものに少し詳しい話を聞くべきか?


「うぅむ、ダンジョンを発見した歩哨に直接聞いてみるといいだろう、

 カラン、彼を呼んできてくれ。」


「かしこまりました。イナズンにダンジョンについて見聞きしたことを

 語らせましょう。」


しばらくして、カランは壮年の立派な口ひげをした兵士を連れてきた。

彼はカランに促されると口を開いた。


「あれはですね、いい陽気の日だったんですよ、まあ巡回日和っていうんですかね?

 私たち、本当に普段は同じ道しか歩いてないんですよ。

 いつもはちゃんと巡回するんですが、その日は本当にいい陽気だったもんで、

 ここで私の隊の若い、仮にA君とでもしておきますかね、彼が、

 あー、かまいやしねぇ、ちょっと道を外れて、昼寝でもしてやろうって

 そんなこと言い出したんですよ。

 私もつい、良いねぇ、なんて言っちゃって…わき道にそれて。

 なんか昼寝によさそうな場所でも探そうと思ったんです。」


イナズンの語り口は早口であったが、なぜか聞き取るのはそこまで難しくない。

そんな独特の調子を持った話術でもって、私たちは不思議と彼の話に引き込まれた。


「で、脇道にそれて、森の中をでーって行って、森の中なんですよ?

 道なんかないんです。でもその時は何だか知らないけど

 ずんずん進めちゃった。今考えるとおかしなもんですよね。」


「30分くらい歩いたかなあ?すると段々寒気が増してくるんですよ。

 ついさっきいい陽気だって言ってたのにですよ?

 急に寒くなってきちゃった。」


「A君もこりゃあいけねえや、早い所もどるかどうかしないと

 いけねえなって思った。でも何でこんなに寒いんだろうな?

 変だな?って思っちゃった。」


「道を戻るんですけどなんか嫌な感じがする、寒気だけじゃなくて

 何かぞぉっとする。嫌だなー、怖いなー、そんなことを思いながら進んで

 いると、それに集中しすぎちゃってたんでしょうね、

 私が足を滑らしてずるぅって転んで、森の坂をだーッて滑り降りちゃった。」


「うわーどうしようって思ったけどもう遅い、掴むもんなんかないんですから。

 滑り降りていくと、どーん!って何かに尻がぶち当たった、

 いってぇーって思って、もう夢中ですよね、」


「おい大丈夫かーなんていうA君の声が上の方から聞こえてくる。」


「大丈夫だ―って返事をして立ち上がろうとすると「ぱき」なんていう何かが割れた 

 音がする。なんだぁ?って思って見てみるとそれ、」


「人間の白骨死体。その頭だったんですよね。それ、私の足が

 踏みつけてたんです。」


きゃぁ、わぁ、うひぃなど思い思いの悲鳴が聞こえる。

ダンジョンの報告のはずだったのだが、なぜか怪談話になっていたので

カランが軌道修正させて要点をかいつまむと、


・ダンジョンの広さは手掘りの洞窟のようで、数人が並んで入れる広さ。


・ウルフやジャイアントスパイダー、妖精種のコボルドが居たため、

 ダンジョンと判断。


・ジャイアントスパイダーに毒はなく、コボルドからは魔法も受けなかった。


とのことだった。

ナズーの何か拾えたりはしなかったのか?という質問には

特に金品の類は落とさなかったという答えが返ってきた。

イナズンを疑うわけではないが、サモ13世は疑問に思ったことを

ナズーに聞いてみることにした。


「ダンジョン難易度が簡単であったら、大したものが出ない、

 なんてことはよくあるんですか?」


「はい、大抵はそうです。強い敵が住んでいるダンジョンほど、

 貴重な物品が出る傾向がありますね。

 勿論、例外もありますが…先祖の蔵の中がダンジョン化したとか、

 そういった本当に例外中の例外ですね」


「ただ簡単な敵が出るだけのダンジョンですと、どういったような評価に?」


「うーん、やはり兵士の教育とか、初心者冒険者の為の練習用ダンジョン

 という評価ですね。

 ですが、サモ領ですと移動の手間がある分、

 通常の訓練場よりちょっと高い程度の価値、となるとこれくらい…。」


ナズーがはじき出した算盤の額をみてサモ13世は唸った。

運動場の価値は解らないが、うちのシーテケ農場4つ分くらいの額だ。

いや、シーテケ農場を比較するのは良くないだろう…丸太おいてるだけだし。


なるほど…とサモ13世は思った。

例えば、ダンジョンの敵に手ごたえがなさ過ぎて、初心者の練習にも使えない。

そういう風に誘導すれば、評価をもっと抑えられるかもしれないな。

そうなると、私もダンジョンの調査に同行するべきだろう。


「ではカランと私も同行しましょう、この目で見てみたいですし、

 一応これでも貴族、武芸の心得もないわけではないので。」


カランも頷いて答えた。つまりは、ダンジョンの敵を圧倒すればよいわけだ、

ならば少しでも頭数を多くして、そういった印象をナズーに植え付けるべきだろう。

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