第10話

「どんな…顔してました?」

「…キレイな狼」


ぬけぬけと、そんな台詞を吐いて、そんな無邪気な顔で笑って。

僕は枕元のベージュの瓶を取り、たっぷりと掌に垂らした。

溢れた液体が、一筋ふたすじ、美しい起伏を描く腹筋に沿って流れ、脚のつけねから、殆ど勃ち上がった彼自身を巡って、肢の間に落ちていく。


「…甘そうな匂い」

「アーモンドと、蜂蜜です」


瓶を置いた手を、伸ばしてきた手と結び合わせる。


「案外、サラサラしてるでしょ?」


そして、塗れた手は膝裏に廻り込み、腿を滑り、しどけない肢の間に滑り込む。

陰嚢を掬い上げて、転がしていると、繋いだ手をぐっと引かれ、唇がまた唇を求める。

熱くなってきた体から濃く漂う、甘い芳香。

濡れた指を、引き締まった入口に忍び込ませる。

八潮が僕にするのと同じように、慎重に、襞を一つ一つ、押し分けて。

微かに顰める眉の動きに、心臓が喉から飛び出すような、烈しい動悸をやり過ごし、そっと、離した唇を、彼自身に落としていく。

その瞬間に、探り当てた、違和感のある一点を刺激すると、口の中の存在が、ぐんと質量を増す。


同じ、造りの身体のパーツ一つ一つが、こんなに…


いや、自分でない誰かの身体が、食べてしまいたい程、近しく感じられるなんて、知らなかった。


ごそつく繁みが唇に入るまで、ぐっと咥えこみ、刺激し続けると、入り込んだ場所が、僕の指を曳き込むように、蠢き始める。

さらにゆっくりと抜き差しを繰り返す。

確実な蠕動を確めて、抜き放つと、


「も…ヤバ…っ」


握ったままの指に、折れそうに力がこもる。びくりと脈打つ、八潮自身。

握った指の間に薄い袋を挟んで、つるつる滑るゴムを取り出し、一気に自分自身に被せる。


「行きますよ」


八潮はうっすら、目をあけて頷き、片脚を僕の肘にかけた。

片方は繋いだままで、もう片方は僕が、自身を支えているから。


「ぐ…っ」


先端が入り込む衝撃を、浅い息をついてやり過ごそうとする八潮。

その唇から、こぼれるものが、花びらに変わるような幻覚すら感じる。

…乾いてくる唇を舐める舌先の紅さのせいだろうか。

容赦なく腰を進めて、全てを納めると、首を伸ばして、自分の舌で、その舌先をちろちろとなぶる。

乾いてきた唇を、湿らせる。

眉間が少しずつ開いてきて、大きく、息を吐くと、八潮も舌を伸ばして、僕のそれと絡めあう。


「ああ…っ」


ざらつく内部が、僕を呑みこんで、奥へ誘い込んで行く。あたたかいうねりが、僕を駆立てる。


「八…潮っ、」


僕は仰け反って、夢中で腰を動かしだす。さらに熱が上がって、蜂蜜の香りが濃くなる。もう痺れてきた指が、ぴりぴりした痛みを伝えた。

…八潮が、さらに握り締めてきて。

停まらない動きに、ぼやけて見える眸は、とろけるように、僕を見つめている。

腹筋と脇腹に挟まれて擦られる八潮自身が、別の生物のように震え、

…熱を、迸らせた。

一気に収縮した八潮の中で、僕も達した。


「は…あっ」


吐き出した力の残りをかきあつめて、漸く、体重をぶつけないように、八潮の上に倒れた。


「好き…」


声になっていたか、わからない呟きが、なぜか通じたらしく、だるそうに首を廻してきた八潮が、僕の耳に唇を押し付けた。


「…離れたくねぇな」


親指の腹が、掌を擽る。僕も首を捻って、漸く届く唇の端に唇をつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

温かい泉 動電光 @chikiryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ