推しに西尾

龍軒治政墫

推しに西尾

 昼下がりの喫茶店。

 気心知れたおっさん二人が、コーヒー片手に会話していた。


「俺な、最近誰を推せばいいのか分からなくなったんだ」

「なにがだい?」

「ラブソルって地下アイドルがいるんだが、知ってるか?」

「知らんな」

「西尾、東尾、北尾、南尾の四人からなるアイドルでな」

「ほう。それで?」

「リーダーでお姉さんな北尾、優等生な南尾、妹キャラな東尾、ツンデレな西尾がいるんだ」

「お前さんの性格を考えると、西尾じゃあないか?」

「ツンデレは好き。大好物だよ? 西尾を推したい。でも、違うんだな」

「なにが」

「全員推したい気分なんだよ。西尾目当てに追いかけ始めたんだが、みんないい子でな」

「なら全員推せばいいじゃないか」

「いいのか? そんな事しちゃって」

「いいんだよ。箱推しと言ってな、グループ全体を推す人もいるんだよ」

「そっか……。でも、一番気になるのは西尾なんだよなぁ」

「なら西尾推しでいいじゃないか」

「でも、全員いい子なんだよなあ」

「だったら箱推ししとけ」

「いや、西尾推しにする。一番好きな子だし」

「解決したじゃあないか」

「うん。今度、ライブに行くのが楽しみでな」

「俺にも来いと?」

「いや、強引に誘わないよ」

「そりゃありがたい」

「小さなライブハウスでやるんだけど、前に知り合いに誘われて別のアイドルのライブに行ったんだが、いい所でな」

「そんなにいいのか?」

「ああ。俺のお気に入りだ。ラブソルのみんながあそこで歌うと思うと、楽しみだ。ここにいいライブハウスが有ると、広めていきたい」

「やっぱりお前箱推しにしろよ」

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