第2話

「まもなくーー 宝塚行きの電車が発車致します。ご注意ください——」


 アナウンスとともに、扉が閉まるチャイムが鳴り出したので、俺は慌てて車内に駆け込んだ——


 すると車内の座席に、過去の自分と白石さんが座っているのが目に入ったので、俺は思わず距離を取り、下を向いた。


「おはようございます」

「おはよ~~」

「今日もお綺麗ですね」

「えへっ ありがと」


 過去の俺と白石さんの会話が耳に入ってきた。今までは、第一人称だったので気づかなかったのだが、第三者として客観的に捉えると、少し微笑ましい光景であった。不思議な感覚である。

 だがそれと同時に、白石さんの声を久しぶり聞いて、幸せを感じるのと同時に、寂しさと孤独感を感じるのがわかった——


 今から彼女の後を追い、失踪した理由を探ることになる訳であるのだが、今になって不安が押し寄せてきた。すると、


「清荒神を出ますとーー 次は終点。宝塚に止まります」


「Next station is TAKARAZUKA……

 The right side doors open」


 車掌さんの声と、聞き慣れた機械音声が聞こえてくる——

 どうやら、不安を感じているうちに、電車は宝塚駅のすぐ手前まで進んでいたようだ。

 そしてそれと同時に、過去の自分と白石さんの別れも迫ってくる。ここからは、彼女の知らなかった顔。知るはずのなかった顔を見ることになる——


 俺はしばらく、自分の顔が映っている車窓の先で、プラットホームの柱が颯爽と過ぎ行くのを眺める。そうしていると、柱の過行く速度は落ちてき、次第には止まってしまった——


 プシュー ガランッ


 扉は勢いよく開いた。すると、車内にいた乗客たちが一気にホームへと流れ出る。


 しまった——!!


 急いで周りを見渡すが、白石さんの姿はない。車内には見当たらなさそうだったので、俺は人混みをかき分けてエスカレーターを下った。すると、改札口へ向かう彼女の姿があった。

 いつもの癖で西宮北口行きのホームへ向かいそうになる足を引き止め、俺は彼女を追う。

 改札を通り、駅を出た。すると空は雲に覆われ、灰のような色を帯びていた。


 途中で何度か見失いそうになってしまったが、しばらく10mほど距離を保って追い続けていると、ひとの少ない通りに入った。通りの入口に黒いパーカーを来た変な男性がいたので、少し怖くなった。

 華奢で綺麗な女性が1人でこういったところを通るのは、危険なように思えるので少し意外だ。


 通りを歩くと角を左に曲がり、白石さんの後ろを10mほど距離をとって歩いていると——


 俺の隣を、灰色のパーカーに身を包んだ小柄な女性が後ろから通り過ぎていった。さっきの変な男性ではなさそうだ。女性だったかは明確ではないが、かすかに胸の膨らみがあったような気がする。

 女性に俺が白石さんをつけていることを気づかれていないかと少し不安になったが、おそらくその心配はいらないだろう。その女性はあっという間に俺から離れていき、今となっては白石さんの後ろにいる。


 が、なんだかようすが変だ。

 パーカーの女性が白石さんのすぐ後ろにべったりとついている。道幅が狭いわけでも無いので非常に不自然である。


 と、そのとき。


 女性が、銀色の長くて先端が尖っている『何か』をとりだした。しかし、距離が離れていて、一体その『何か』が何なのかは分からない。

 そうしていると——


 女性は急に走り出し、白石さんを通り越していった。

 そのとき白石さんはというと…………


 白いワンピースの背中側が真っ赤に染まっていた。その赤い染みは今も絶えず広がっている。

 と、それと同時に白石さんは膝から崩れ落ちるかのごとく道路に倒れこんだ。

 俺は思わず彼女のもとへ走り出した————

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