朴(わたし)とパラドックス

ふわふわダービー

第1話

『プロローグ』

 この小説は、県立高校に通う男子高校生である遠野葵が、時空を超え、タイムパラドックスを超え。恋心を寄せていた女性を事件から救う、サスペンス・ミステリー・ラブコメ (?) な小説である。


 ※ ※ ※


 9月5日 月曜日の朝6時58分。


 プシュー ガランッ 1番線ホームに立っていると、宝塚行きの電車の扉が開いた。車内に入ると、流れるように座席へ着く。車内は、普段より少し人が多いように見えるが、座席は所々空いている。

 扉が閉まり、一瞬にして音が消え、まるで時間が止まったかのように思われた後。モーター音と共に再び時間は走り出した。いつも通りの、変わらぬ日常が始まったかのように感じられた。


 電車は1分も経たないうちに、売布神社に停車した。

 すると扉が開き、俺のすぐ隣に綺麗な白色の半袖ワンピースを着た、美しい女性が座った。座席が軽く弾む。

 袖元からは、綺麗なほっそりとした白い腕がのびている。歳は俺よりもひとつ、ふたつほど上だろうか。

 俺は彼女とあいさつを交わした。


「おはようございます」

「おはよ~~」


 彼女はいつも笑顔で返してくれる。


「今日もお綺麗ですね」

「えへっ ありがと~~」


 別に彼女を口説いている訳ではない。これはあくまでもいつも通りの会話の流れ。テンプレなのである。俺たちは、こうして毎朝会話を交わしている。毎朝とは言っても、平日に限るのだが。かれこれ、こうするのも5、6ヶ月と言ったところだろうか。

 彼女の名前は白石さん。正確な歳は分からないが、白石さんはどこか大人びていてお姉さん感がある。苗字だけは知っているのだが、その他については何も知らない。正確な歳も、下の名前も。行先も。

 俺は彼女の事をほとんど何も知らない。だが、そんな彼女に俺は思いを寄せている。そして彼女と接することの出来る、唯一の時間。それが俺の平日の朝。今この瞬間なのである。


「今日は雲ひとつないですね」

「だねぇ~~」

「確か最高気温は35度でしたっけ」

「そうなの?? わたし、とけちゃうよぉぉぉ~~」

「明日も暑いそうですよ」

「えぇ…… 明日は日傘もってこよーっと」


 こうやって他愛のない会話を彼女と交わすことが、俺にとっての幸せだ。そしてそんな日常が非常に愛おしい。そうは言っても、永遠にこの幸せな時間が続く訳ではない。俺たちは、終点の宝塚駅で別れる。彼女と別れると毎回、激しい寂しさに襲われるのだが、そのたびに、次の日の朝を待ち遠しにして、寂しさを堪えている。


 そんなある日のことだった――——


 9月6日火曜日の朝6時58分。今日も俺は、いつも通りの朝を迎えようとしていた。いつも通りの電車に乗り、いつも通りの座席に座った。

 1分ほど揺られると、電車は売布神社で停車した。


 しかし、いつになっても白石さんは現れようとしない。もちろん、こんな出来事は彼女に出会ってから初めてのことであった。

 もしかしたら、事故に遭ったのかもしれない――

 そう考えたりすると少し焦ったが、冷静に考えるとその可能性は低いだろう。今日はたまたま寝坊しただけなのかもしれない可能性もある。あまり深く考えても仕方がないので、とりあえず彼女について考えることは止めた。

 だが、その日は学校でも授業に全く身が入らないまま、時間だけがただ過ぎていった。


   日常シーンfdfdfdfdfd


 





 そして次の日も白石さんは現れなかった――


 流石に2日も会えないと心配になってしまう。そして寂しい。

 だが、もしかしたらただの体調不良なのかもしれない。いや、事故の可能性も…… そんな事を考えていると、他のことが考えられなくなってしまった。


 その日俺は自分と約束を交わした。

 ――今日からは白石さんについて考えず、学校では授業に集中し、また会える日を待つ。しかし、11日の朝、彼女が現れなければ理由を探る。勝手に他人の私情を探るのは許されることではないだろう。だが、このモヤモヤを抱えたまま、まともに生活を送れる気がしない。辛い理由があったとしても、受け入れ、それから納得する。

 本当に自分勝手な行動であるが、これしか解決法はないと思った。

 

 そして迎えた9月11日 月曜日の朝。いつも通りの宝塚行きの電車に乗った。しかし、今日も白石さんは現れなかった。

 1人で誰との会話もなく電車に乗り、ただ質素な時間だけが過ぎていった。そしてその後の学校では、ただ一つのことについて考えていた。今夜、彼女の行方について探るのかどうかについてだ。


 そして迎えた夜――


 夕食は、麺つゆのかかった太めのうどんに梅干しが乗せられた、梅うどんだった。食欲が落ちやすいと言われている夏には最適の料理である。どうやらポン酢もかけられているようで、めんつゆの旨味とポン酢の酸味が合わさり、絶妙なテイストとなっていた。


   ※ ※ ※


 夕食の時間は心が癒された気がした。


 テレビで『宝塚駅周辺にて女性殺害』のニュースが流れていたのを除けば——


 食事を終えると、真っ先に自室へと向かった。

 俺は今から、時空転移で、白石さんが現れた最後の日である、先週の月曜日の朝に行く。そして電車に乗り、宝塚駅で降りた後に彼女の後を追うつもりでいる。これは、正しい行動とはとても言い難いものである。なので、白石さんのプライバシーに踏み込み過ぎないよう、十分に注意して行うつもりである。

 まあ、その他にも「過去の自分にバレないように」だとか、注意すべき点は数多くあるのだが。

 ともかく、「過去に戻って白石さんの後を追う」ということだ。

 





   [ こっから神社シーン ]



 その前に、服装を何とかしなければならない。過去の自分からも、白石さんからも気づかれないように変装しなければ――

 自室のクローゼットを探ったが、目的に合った服がなかったので、俺は両親の寝室からコートを漁ってきた。あとはマスクとサングラス。これは自室で揃った。

 少し怪しまれるかもしれないが、バレないような服装も整った。これといって他には必要な物もないので、俺はいよいよ時空転移に移ることにした――


 石を両手で握り、目を閉じる。そして、頭の中で『9月8日。先週の月曜日の朝』を思い起こす。


 すると、しばらくして耳鳴りがしてきた。段々と音が大きくなってくる――


   ♦( 9.15 ☞ 9.8 )♦


 やがて、音は小さくなり消えていった。それと同時に、次はなにやら人の声が聞こえてくる。

「……線に、…………行きの電車が……ます。黄色い線より内側にお下がりください」

 そして、まぶたの裏が少しずつ明るくなっていくのが分かったので、思わず目を開けると——

 そこは駅のホームだった。どうやら転移は成功したようだ。


 電光掲示板の時計を見ると、時刻は 6時57分 を指していた——

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