第3話

 白石さんのもとへ寄り添うと、赤い染みの正体が分かった。


 それは『血』だった——


 ――そんなことよりも、今は彼女を助けなければならない

「白石さん! 大丈夫ですか?!」


 すると、白石さんは体をうつ伏せにしたまま、顔をアスファルトに擦りながらもこちらに向け、いかにも苦しそうに言葉を放った。


「と、遠野くん…… なんでここに……」


 彼女の苦しそうな顔を見ていると、とても心が痛む。

 だが、こうしてはいられない。今すぐに彼女を助けなければ……

 今俺にできることは————救急車を呼ぶことだ。

 犯人の姿はもう見えなくなっていた。


 俺はすぐさまスマートフォンをカバンから取り出し、初期状態からインストールされている電話アプリを開いた。

 そして、『119』と入力して発信ボタンを押す。


 しばらくすると、スピーカーから声が聞こえた。


「はい、119番。救急ですか? 消防ですか?」


「救急です!」


「場所はわかりますか?」


 その後はしばらく通信指令員さんの質問に受け答えをした。

 宝塚駅周辺ということで街の中心地だったからか、救急車は5分ほどで到着するとのことだった。背中からの出血を伝えると、止血が必要とのことだったので、持っていたハンカチで傷口を強く圧迫する。そして白石さんの意識を保つために、彼女に声をかけた。


「白石さん! 大丈夫ですか?!」


 すると白石さんは、さっきまでの苦しそうな顔を抑え、ニコッとして返してくれた。俺に心配をかけないようにしてくれているのだろうか。


「ふふっ それさっきも言ってたじゃん。大丈夫だよ……」


「 わたし、遠野くんと出会えてよかった……」


 そう言うと、白石さんは身体からだ中から力が抜けたかのようにぐったりとし、反応がなくなってしまった——


 止血をしながら何度も白石さんに声をかけていると、しばらくして救急車が到着し、数名の救急救命士の人たちが降りてきた。

 そして白石さんは担架で救急車へと運ばれていった。


 ※ ※ ※


 付近にいたからなのか、気づけば俺も救急車に乗せられていた——


 懸命に治療にあたっている救命士さんには少し申し訳なかったが、俺は口を開いた。


「その…… 彼女は、た、助かりますか……」


 すると相手もこちらの心中を察したのだろうか。大きく息を吐いた後、こちらを向いて落ち着いた口調で言ってきた。


「現段階で既に助かる可能性は低いです……」


 その言葉を聞き、俺が何もかも分からなくなっていると、救命士さんは続けた。


「しかし、あなたが行われた救助活動には大きな意味がありました。それのおかげでまだ僅かに可能性は残っています」


 と……


 だがその言葉は心の励みになどならず、俺はただ車内で呆然とすることしかできなかった——

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