第6話 海辺の写真(1)
フウコは、一言で言えばチャラいヤツ。
髪は脱色してバリバリに傷んでるし、私より一こ上の中二らしいが、いつもしっかりメイクをしている。しかもメイクをしていてもニキビや毛穴の汚れが目立って、ちょっとブサイクな感じだ。でも誰にでも気後れすることなく大声で話しかけるし、最新のファッションとか芸能ネタとかにはやたらと詳しい。それにいつもニコニコしていているので、数日一緒に遊ぶくらいなら悪くない、というレベルの子だ。
中一の夏、家族で訪れた海辺の別荘で、私は退屈していた。
もう小学生の子供ではないのだから、貝やカニを見て喜ぶ年齢でもないし、一人っ子だから一緒に遊ぶ姉妹もいない。本当は家に残りたかった。でも別荘に行ったと言うと、みんなそれなりに羨ましがってくれるかもしれないし、そう広くもないロッジ風の家だけど、玄関を出れば白い砂浜のビーチもすぐのところだから、結構いい感じの写真も撮れる。
つまり、ただ見栄をはるための写真を撮るために、私は別荘について来たのだ。
「ねえ、ヒマ?」
午後の海辺で、写真を撮るのもすぐ終わってしまって、コンクリートの階段の端に座りぼんやりしていると、いきなりその声と一緒に、派手なメイクをした女の子の顔があたしの目の前に現れた。
オレンジのミニワンピースを着た彼女は、最初はかなり年上に見えてドキッとしたが、よく見れば童顔で話し方もクラスの子と変わらないので、同じ中学生くらいだと分かった。
「ヒマ?」
もう一度彼女が人懐こい笑みを浮かべて言う。うなずくと彼女は嬉しそうに隣に座った。
「あたしも。夏休みって意外と退屈だよね。でも、あんたこの辺の子じゃないよね。だって顔見ないもん」
私が隣の市から一週間ほどの予定で来ていることを説明すると、彼女は目を見開き、感心した様子で私を見た。
「すっごい。あたし、別荘持ってる子なんて初めて見た。ね、でも退屈してるなら、ここにいる間だけでも一緒に遊ぼうよ。あたしこの辺のことなら何でも知ってるからさ」
彼女の傷んだ金髪と剥げかかったネイル、使い古した感じのビーチサンダルが少し引っかかったが、結局私はうなずいた。父は仕事を持ってきているし、母の寺院巡りには興味がないし、これから一週間どうやって暇を潰したらいいのか、絶望的な気分になっていたところだったからだ。やはり同年代の子と一緒に遊びたかった。それにたった一週間のつき合いだ。ちょっといい加減な感じの子だけど、たまには新鮮でいいかもしれない。私が通っている中学は私立の女子校で、結構堅苦しい雰囲気だから。
「あたし、小枝風子。フウコってみんな呼ぶよ。あんたは?」
「瀬良真央」
「マオ!」
一緒に砂浜を歩いていたフウコは大声で言い、ため息をつきながら肩を落とした。
「いいなあ。あたしもそういう可愛い名前が良かったよ」
名前を褒められたのは初めてだったので、なんだか嬉しい。
私が最初に少し心配したのは、フウコの外見がかなり派手だったので、お金をたかられたらどうしよう、ということだった。しかしそれは余計な心配だと、すぐ分かった。フウコの家は年中無休のラーメン屋さんで、忙しいので両親にはあまり面倒を見てもらえないが、食事代はいつも多めにもらっているそうだ。財布の中身は、私より多いくらいだった。
それどころか、フウコと一緒に近くの海の家やビーチ沿いの店を巡るうち、彼女は今の私にとってなくてはならない種類の友達だということが分かってきた。レストランでも、ショッピングモールでも、私が店員に話しかけられなくて困っていると、フウコはすぐ「すみませーん」と慣れた声で店員を呼び寄せ、追加の注文とかサンダルのサイズとか、私の言いたいことを聞いて伝えてくれる。
私は……実は、かなりおとなしい方だ。だから普段は親にも友達にも言いたいことが全部言えず、ストレスをため込んでいるのだが、フウコは何でも私に聞いてくれるので、とても助かった。
ただ、本当に大声なので少し恥ずかしかったけど。
「ねえ、あれ。今めちゃ人気の店なんだよ。入ってみない?」
フウコと出会って四日目。午後の海岸沿いを話しながら歩いていると、急にフウコが小さな小屋のような店を指さして言った。入ってみると、そこには真っ白な木製小物と色とりどりの小さなガラスのアクセサリーがところ狭しと並んでいて、小さいが本当に素敵な店だった。小物の材料の流木も、カラフルな丸いガラスのかけらも、全部砂浜で店長の女の人が探して集めたものだそうだ。
その女の人は既にフウコと顔見知りのようで話が弾み、笑いながら私にも、どこから来たの、と話しかけてくれた。私とフウコはそれぞれ薄いピンクと水色の、ガラスをつないだ小さなリングを買った。お揃いのリングだ。涼しげな色のガラスが、夏らしい。
「ね、写真撮ろ」
店を出た後フウコが言い、二人で砂浜に下りる。そこでまたフウコは学校の友達らしいグループを見つけ、走り寄って行った。すぐに戻ってきたフウコはぴょんぴょん飛び上がって喜んでいた。
「明日、近くで花火大会あるって。知らなかった。あたし花火大好き。マオも行くよね。一緒に行こ!」
花火は私も大好きだった。断る理由はない。
「うん!」
その後は二人で指輪をつけ、ビーチで写真を撮り続けた。
「ね、こうすると結構小顔に見えるんだよ」
少しぽっちゃりしているフウコが、水色のリングをはめた方の手で頬を包んで言う。ホントかな、と思いながらも、私もピンクのリングをはめた手で頬を包み、パシャ。確かにいい感じ。さらに小顔に見えるとフウコが言う、斜め上からもパシャ。二人並んで海をバックに、パシャ。それぞれのスマホで、砂浜が暗くなるまで写真を撮り続けた。
そろそろお腹空いたねと二人で話していた時、母からメッセージが届いた。
〈早く帰りなさい〉
フウコは夕食も一緒に食べたいと言ったが、母の機嫌を損ねると明日の花火大会に行けなくなるかもしれないので、仕方なく帰ることにする。
別荘に帰ると、父も母も忙しそうに帰り支度を始めていた。
「ど、どうしたの?」
「お父さんの仕事の予定が変わったの」
母は私の方に顔も向けずに言い、玄関にギャリーケースを置く。
「でも、明日花火大会があるって……」
「花火大会は八月にうちの近くでもあるじゃない。早くマオも準備して」
寺院巡りができなくなったので、母はちょっと不機嫌そうだ。
フウコに、知らせないと。
私はスマホを握りしめたまま、ぼんやり考えた。行けなくなったと知らせないと。もう、会えないって……
そこまで考えて、ビクッとする。
帰る。それは元の友達とつき合う、元の生活にもどるということだ。そこにフウコはいない。というより、いては困る。
女子校の友達は皆、お嬢様っぽい子ばかりだ。誰も大声を出したりしないし、きれいな靴を履いているし、傷んだ金髪などではなく、皆手入れの行き届いたつやつやの髪をしている。そんな友達にフウコは紹介できないし、一緒に撮った写真も見せられない。
でも、フウコに帰らなければならないことを伝えた時、もしフウコが、じゃあ今度はアタシがそっちに遊びに行くよ、と言い出したら。
私はきっと、それをうまく断れない。
だったらもう連絡しないで、明日の花火大会をすっぽかしてしまえば、フウコは怒って、もう私のことなんかどうでもいいと思ってくれるだろう。
少し、がっかりするかもしれないけど。
ごめん。ごめんね、フウコ……
夏休みが終わって、学校が始まった。
「マオは? マオは夏休み、どこか行った?」
夏休みに行った海外旅行の自慢話を周囲の子たちにしていた友達が、ふいに私の方を向いて言った。
「ああ……S海岸の別荘に、ちょっとだけ……」
私が答えると、友達はクスッと笑った。
「あそこもいいよね。結構きれいだし、すぐに行けるし」
それからまた友達は、自分の旅行話の続きを始めた。たぶん彼女は、自分よりいい所に旅行した人はいないという確認のためだけに、私に聞いたのだろう。
あれからフウコとは会っていない。別荘から帰った翌日は、何度もスマホに病気なのかと連絡が来たが、夜になるとそれも途絶えた。私が返事をしなかったからだ。
フウコは明るいから友達が多い。私と一緒に歩いていても、色々な知り合いを見つけては声をかける。きっと心配しているのに返事もしない私のことなど、もういいと思ったに違いない。
返事をしなかったのは私の方なのに、悲しくなった。ただ、運よくと言っていいのか分からないが、夏休み明けからは急に勉強が難しくなって、所属している吹奏楽部の部活も忙しくなった。そのせいで落ち込んだりする暇がなかったのが救いだ。
フウコから再びメッセージが届いたのは、その忙しい夏休み明けからしばらくした頃だった。
〈あたしのこと忘れたよね。写真も消して二度と見ないでね。さよなら〉
絶交宣言。
夜遅く、私は自分の部屋でスマホの画面を、ただ呆然と眺めた。
フウコと遊んでいた時の画像を開いたことは、あれから一度もなかった。見れば自己嫌悪で立ち直れなくなってしまうことが分かっていたからだ。ピンクのリングも仕舞い込んで見えないようにした。これからも、二度と見ることはできないだろう。
涙がこぼれそうになった。
私は、あのいつもニコニコ笑っていたフウコを、私のために大声で店員を呼んでくれた優しいフウコを、ここまで怒らせてしまった。ヒマな時に声をかけてきたフウコを友達として都合よく利用して、都合が悪くなるとメッセージも無視して、あっさり捨てた。学校の、それほど楽しくもない友達関係を守るために。
違う。悪いのは友達関係じゃない。
私が弱かったから。弱すぎたから……
〈……マオ!〉
フウコの叫び声で飛び起きた。部屋には明かりが点いたままだった。スマホを眺めたまま寝落ちしたらしい。時計を見ると、朝四時過ぎ。
フウコから新しいメッセージは来ていない。
なぜフウコの声が聞こえたのだろう。何かフウコの夢を見ていた気もしたが、思い出せなかった。それでも助けを求めるような悲鳴に近い声は、まだ耳に残っている。
声は、スマホから聞こえたような気もした。
なぜ……
翌日、学校から帰ってみると、母がつけっぱなしにしていたリビングのテレビに、偶然フウコと最後の日に行った小物とアクセサリーの店が映っていた。女性レポーターと話しているのは、あの時フウコや私に優しく声をかけてくれた店長の若い女の人だ。
ドキン、と胸が鳴った。
私はフウコの家がどこにあるのか、どの中学に通っているのかも知らない。でもこの女性店長なら、もしかしたらフウコのいそうな場所を知っているかもしれないと、いきなりひらめいたのだ。
フウコにあやまりに行きたい。
絶対行かなければならないと、ようやく気づいた。あやまっても許してもらえないだろうけれど、とにかくあやまりたかった。今の私は、自分で思ったよりも、もっとずっと酷いことをフウコにしてしまっている気がする。それに夢の終わりに聞こえたフウコのあの声が気になって、心配で仕方がなかった。
テレビ画面には、あの日一緒に見た白い小物やガラスのアクセサリーがたくさん映っていた。思い出がどっと押し寄せてくる。自分の部屋に行って、机の引き出しの奥に仕舞い込んでいたピンクのリングを急いで取り出してみた。もっと懐かしくなった。フウコと一緒に撮った画像を、どうしてもまた見たくなった。
スマホのアプリを開く。すぐに出てきた。たくさんのフウコと私の写真。自分でもびっくりするくらい、どれも本当に楽しそうな笑顔だ。
私って、こんなに笑う子だったかな。
きっとフウコと一緒だったからだ。フウコも笑っている。変顔も、頬に手を当てたすまし顔も、どれも全部懐かしい。背景の海も記憶の中と同じように、午後の陽射しにキラキラ光っている。この光の中で二人一緒に何度もポーズをとって……
え……
私は一枚の画像のところで指先を止めた。
一枚だけおかしな写真があった。おかしいというより、ありえない。
それは私が、たった一人で写っている写真だった。顔を斜めにして頬杖をつき、笑顔で砂浜に座っている。そんなはずはなかった。あの時は私が手前に、その後ろにフウコが重なるように座り、スマホは二人とも斜め上に上げて、同時に撮ったはずだ。写真は後で、私とフウコが全部チェックした。一人で映っていた写真は一枚もなかった。
それなのに画像の中で、私は一人で砂浜に座っている。フウコの位置には砂浜と、海。波の向こうに黒い粒のようなものが浮いて見えるけれど、それは海水浴に来ていた誰かの頭だろう。
フウコが、消えている。どうして。
撮影時の情報を確認する。やはり、最後の日の午後に撮影したものだ。最後の日の、午後四時……ちょうど……
何か……妙な話を、以前聞いたことがあったような……
思い出せなかった。とにかく嫌な予感がして、私は急いでフウコにメッセージを書いた。許してくれなくてもいいから、あやまりに行きたいことを伝えた。本当は奇妙な写真のことも書きたかったが、気持ち悪くて書けなかった。そしてフウコの返信を待った。
深夜になっても、その翌日も、フウコから返事が返ってくることはなかった。
その週の週末、私は母に友達と出かけると言って早朝の電車に乗り、別荘のあるS海岸に出掛けた。一人で行くのは初めてだったが、フウコとあちこち歩いたので、道を間違えることはなかった。むしろ懐かしい。
「あら……夏休みにフウコちゃんと来てた……」
店長は、フウコとたった一回来ただけの私を覚えていてくれた。私が驚いた顔をしたのか、店長は優しく笑った。
「覚えてるわよ。新しい友達ができたって、フウコちゃん、本当にうれしそうだったから」
それから急に下を向き、泣きそうな表情になった。
「あの……フウコに会うには、どこに行ったら……」
私は訳が分からないまま、おそるおそる尋ねる。
「……行方不明なの」
「え……」
私は聞き返した。聞き間違いだと思った。
「でも、たった四日前にフウコからあたしのスマホに連絡が……」
「じゃあその翌朝ね」
店長は顔を上げた。
「夜中に帰宅してたのは、お母さんが見ているの。でも早朝仕込みのために起きてフウコちゃんの部屋をのぞいた時はもう、姿が消えていて……。でもフウコちゃんがふらっといなくなるのはよくあることだから、お母さんもどこか友達の家に行ったと思ったそうなの。でも……丸一日経っても戻って来なくて大騒ぎになって。私はそのことを知らなくて、のんきにテレビの取材を受けたりしてたんだけど、昨日そのことを知って、一日店を休んで一緒に探したわ。でも全然……今のところ手掛かりも見つからない状態よ。フウコちゃんのご両親も、放っておいた自分たちが悪いと、とても自分たちを責めていて、ラーメン屋さんもずっと休業中なの」
でも、と店長はあごに手を当て、首を傾げた。
「変なのよね。確かにフウコちゃんは目立つ外見してるけど、それなりにしっかりしてるし、寂しがり屋ではあるだろうけど、誰にでも誘われるままついて行ったりはしない子だと思うの。警察は何か事件に巻き込まれたかもしれないって言うけど、どうもしっくりこなくて」
店長は、頭が真っ白になって何も言えないでいる私の顔を覗きこんだ。
「ねえ、行方不明になってるのを知らなかったのなら、あなたはどうしてここに来たの。フウコちゃんからの連絡って、何が書いてあったの?」
私は迷ったが、フウコのメッセージを店長に見せた。
「さよならって……。でも私が悪いんです。フウコに黙って帰ってしまったから」
「やっぱりね……」
店長の言い方はまるで予想していたようだった。
「先週だったかな。店に来たフウコちゃんに相談されたの。もし友達と一緒に撮った写真が、もう友達は絶対見てはいけない写真だと分かったら、どう言ったら伝わると思うって。変なこと言うなあと思ったけど」
絶対……
写真。やはり写真だと思った。何にフウコはこだわっていたんだろう。それにもう、私は写真を見てしまった。私はただフウコが怒って、もう見ないでと言っているだけだと思いこんでいたから。
でも、本当に見てはいけないものだったのだとしたら。
フウコはそれに気づき、私が見たらいけないと思って考えた末に、あの絶交の言葉を送ってきたのだとしたら……
しかし、確かにあの写真は嫌な感じのするものだったが、見たらいけないとまでは言えない気がした。何がいけないのか、分からない。それとも他の写真のこと……?
私が写真を見てしまったことを言うと店長は、もしかしたら写真が行方不明の原因かもしれないから、と言って、一枚一枚ていねいに見てくれた。しかし結局、店長も何にフウコがそれほどこだわっていたのか分からないと首を傾げた。
「この、あなたが気になるという一人しか映っていない写真も、やはり思い違いで、一枚くらい一人の写真も撮ってしまっただけじゃないかしら。だってあなたが映ってて、背景の海には女の子が浮いていて……うん、普通に夏の海辺の写真にしか見えないもの」
……女の子?
そんなはずはない、と思いながら、私は店長が見ている画像を覗きこんだ。
女の子とは、あの遠い波の向こうに見えた黒い粒のことだろうか。しかしあの大きさではわずかに人影と分かるくらいで、大人か子供かさえ区別できるはずが……
違った。黒い粒が大きくなっていた。
私はごくりと唾を飲みこんだ。確かに、女の子だ。黒い影になっているので顔はよく分からないが、丸いおかっぱ頭の女の子に見える。しかも遠い波の向こう側ではなく、波打ち際のかなり近くに浮いている。私の見間違い? 記憶違い?
それでもどこか変だ、と思った理由はすぐ分かった。手前の私は横から午後の光を浴びているのに、背景の女の子には、まるで夜のように、全然光が当たっていない。真っ黒だ。
この写真は変だ。絶対、変!
そう……以前誰かが同じような、変な話をしていた気がした。
……男子の声だった。まだ公立の小学校に通っていた頃。教室の壁際でヒソヒソ。何話してるんだろう。
―消えた隣町の小学生……カズヤって言うんだけど、俺と同じ塾に通っていて仲良くなったんだ。塾の前で急に写真撮ろうって言い出して、一緒に写真も撮った。二人同時に、自撮り……。消える数日前から様子が変だったけど、〈だまされた。ごめん〉なんて書いて送ってきて……カズヤが消えた後で写真を見たら、あいつだけ消えてたんだ。それでまさかと思って撮った時間を確認したら……
一人が言った。
―じゃあ確定だよな。
もう一人が沈んだ声で答えた。
―だまされた、か……。たぶんそいつは知らなかったんだ。四時ちょうどに自撮りする本当の意味を。
二人は校内では使うことが禁止されているスマホを隠すように見ていた。私の座っている位置からはそのスマホの画面が、ちょうど二人の隙間に見えた。
画面の片側に一人だけアップで、顔を何かに寄せるように傾けて、笑っている写真。まるでフウコが消えた後、私だけが映っていたのと同じような……
―でも変じゃないか。カズヤを……が連れて行ったのなら、なぜ俺も一緒に連れて行かなかったんだろう。噂どおりなら、俺も同時に自撮りしたんだから……
写真に残ってる方の一人が言った。もう一人が首を横に振る。
―おまえの方がそいつより気づくのが遅かったからだよ。それでたぶん……が連れて行くまでの時間がずれてるんだと思う。
私とフウコもそうだ。私の方が変だと思うのが遅かった。
おまえ、と呼ばれた男子はその数日後、雨の中一人下校していて姿を消した。時間はたぶん、午後四時ごろ。濡れた歩道に傘だけが転がっていたという。それより少し前に隣町の小学校でも行方不明者が出ていたから大騒ぎになって、長い間一人での登下校は禁止になった。それで母が急に、車の送迎ができる私学を受験しなさいと言い出して、今の女子校に入学したのだ。
今の私は、多分あの、おまえと呼ばれていた男子の立場だ。あの男子が見つかったという話は、まだ聞かない。
じゃあ、私もそうなるの。消えてしまうの?
あの男子は追い詰められたように両目を閉じて言った。
―忘れてたんだ。ただの都市伝説だと思っていたから。まさか四時ちょうどに自撮りしてしまうなんて……
四時ちょうど。四時……よじ……
「あの……そのスマホ、電源切ってくれませんか。写真を見るのが、つらくて……」
私はまだ私のスマホを持っていた店長に頼んだ。店長があわてた様子でうなずく。
「うん、分かった。切ってあげる。そうね、心配よね。顔が真っ青。でも大丈夫だよ。警察も近所の人も一生懸命探してるから、フウコちゃんはきっと見つかるから」
「はい……」
店長が差し出した電源の切れたスマホを、私はなんとか受け取った。本当は怖くてスマホに触りたくなかった。手が震えて落としそうだった。確かにフウコのことは心配だった。でもそれ以上に私は怖かった。完全に思い出してしまったから。
よじこの呪いを。
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