侵食していた歪み


 メラクくんの護衛、という話が出たけれど力の性質上【白の王】は戦う力がない。だから【白の王の半身】は破壊・攻撃の力を引き継ぐのだ。

 ただ護衛の力としては【黒の王】にも匹敵する程の魔力のため、【白の王】に仇成す存在に対して本領発揮するには王が敵と見做す必要があり、普段は威嚇程度の実力しか出せない制約があることがわかった。これは私も初めて知ったが、そう考えれば2人は伝承通りと言える。

 冷静に考えたら【黒の王の半身】に武器なんて出るわけないし自由に攻撃魔法をバンバン使えるなんて確かに異例だ、空から降りる光を槍に変えて私と前線を駆けているダイスケくんを見慣れてしまったせいで、おかしいことなんて頭から抜けていた。

 それにダイスケくんが【半身】としての鎧の色は黒一辺倒に見えて光が当たるとオーロラの色合いが浮かぶ鎧とマントで、少ない記述をひっくり返しても全く出てきてない色味のものっていうことにも気づく。

 対してアミさんが今纏っている綺麗な黄金の縁取りと雪景色を想像できる白の鎧は、土まみれのところに寝転がっていても汚れることは一切ない、代々の【半身】が纏ってきた由緒正しいもの。


「うーむ、歴史上なかったことが【黒の王】に優秀な【白の王】にも起こって当然と考えたか……。」


 書庫にこもって歴代【白の王】の記録を漁り尽くした私は、メラクくんがああ言い出した理由の輪郭がまた一つはっきりした感覚を覚える、同時に神殿の歴史を綴る担当官達の期待通りの事象が起きないことへの苛立ちに2人が晒されていたことに気づけなかった自分の愚鈍さに舌打ちもため息も止まらない。

 最近メラクくんの周りに護衛志望の者達が募っているのは、成長が見込めないアミさんの芳しくない成長速度から後釜に収まれないかと狙っている連中なのだろうか?

 無理だって諦めさせることも、2人の関係修復もどうするべきかと考えながら王の書庫から出ると、「キョウちゃん。」と後ろから低い声が私を呼び止めた。


「アミちゃん連れてきた。」


「思っていた以上に早くて驚いた。」


 帰還を命じて僅か1日でダイスケくんは目の下を腫らした少女、基アミさんを伴って帰ってきた。

 彼女は私の顔を見た瞬間またクシャリと泣き出しそうに顔を歪ませたため、急いで私の部屋に連れて行き、落ち着いたところで何があったか聞き出すことにした。


「……好きじゃないって言うのはわかった。でもアタシは、アタシがやりたくてやった努力を、無駄なんて言わないで欲しかった……。」


 

 ダイスケくんが温めたミルクを2つ持ってくる、1つを私の前に置いたのに疑問の目を向けたが、「ご飯食べてないね?」の笑顔に反論できず黙って受け取り、改めてアミさんが言葉を発した。


「……ついさっき、メラクに指摘された努力の無駄って言われて、こっち来てからのアタシ自身が否定された感じして、どうしたらいいか分かんなくて、気づいたら……。」


「衝動的に元の世界に帰っちゃったわけねー……うーん、俺に言われたいわけじゃないだろうけど、アミちゃんの努力は無駄じゃないって思うよ。」


「うん……今だって無駄にしたくないから、ダイスケさんと一緒に帰ってきた。」


 ダイスケくんに慰められ、マグカップをぎゅっと握りしめてアミさんは俯いた。


「メラクを支える役目に選ばれた時、これはアタシしか出来ないことだってメラクは言ってくれた。好きな人に言われたらさ、やっぱ頑張りたいじゃん?……でも、逃げちゃった、けどね。」


「メラクくんから君がどうして帰ったのか簡単な理由は聞いた、けど……アミさんは彼をまだ愛しているの?」


「当たり前ですよぉ!」


 私の問いにアミさんは当然とばかりにすぐ頷いたから驚いた。栗色の瞳に迷いはなかったのだから。


「ぶっちゃけ、アタシがメラクが好きになった理由はどうしようもない理由だけど、怪我人とか弱っている誰かを見捨てらんないところがやっぱり好きなの!それに……。」


 ぐいっとまだ熱いだろうミルクを一気に飲んで、アミさんは驚くべきこと言った。


「メラクも今、苦しんでると思うから支えたいんだ……。」


 これは、彼女がいつものように1人で引き継いだ力をうまくコントロールしようと訓練して、かつ公務が入っていた日の話だという。


「ああーもうどうしてうまくいかないかなーもー!!少年漫画もっと見とけばよかった!?いやチート系小説とか漫画の方が役に立ったり……?もー今からでも読みに行くべき?」


 「アミ、自主練は終わった?」


 空に向かって嘆き吠えていたところを、いつものようにメラクくんは呼びにきたそうだ。


「そろそろ公務の時間だからね、迎えにきたよ。」


「えっ、メラク!?嘘、ごっめん迎えいくのアタシの役割じゃん!!」


「いいんだよ、俺がアミに早く会いたかったんだ、今日も一緒に頑張ろうね。」


 いつものように迎えにきたメラクくんの手をアミさんは取っていつものように彼の護衛へと着いていった。

 

 今日も国外で貧困故に治療が受けられない人々の元へ赴いて、その治癒の力を以て救うとメラクくんは彼らの感謝の言葉に笑顔を向けて教会から出たが、すぐには国に帰らなかった。その日はある貴族の息子の治療が入っていたらしい。


「……変だよなぁ。」


 道を進むメラクくんへ、羨望と尊敬の眼差しを持って我先にと他の護衛志望達が囲む。いつものことだと割り切っているらしいアミさんはそこについて何も思うことはなかったそうだ、ただ遠いメラクの背中を見て疑問に思ったらしい。


「メラクが何回も訪れないと治らない病気って、何だろう?」


 そこまで聞いて確かに私もおかしいと思った。

 歴代の白の王を凌駕する魔力を持つと言われるメラクくんが何度も足を運ばないといけないほど。そう思いながら私は彼女の話を聞き続けた。


「聖王様!!」


 教会からほど遠くない場所に、大きな屋敷と2つの影が出迎えたそうだ。


「聖王様お願いします、再び息子を苦しみから解放してください!!」


「聖王様、息子のことをどうか、どうか……!!」


 メラクくんを聖王と呼んだのは妙齢の男女。煌びやかなドレスや綺麗にきっちりと整えられ身につけたスーツが土に汚れるのも厭わず膝をついて縋ったそうだ、彼らの顔はよく見れば頬がこけていて、ファンデーションで誤魔化されているが、目の下に隈が出来ているほど憔悴が激しかったらしい。

 

「大丈夫、大丈夫ですよ、安心してください。」


 そんな彼らにメラクくんは笑顔を作って、男女の視線に合わせてしゃがみ込み背中をさすった。それだけで2人の顔から憂いが晴れて笑顔が見えたそうだ。

 気持ちが落ち着いたらしい夫婦を先頭に、病の息子が休んでいる部屋へと案内される。無論護衛達もアミさんも揃ってついていく。館の中に入った時、嫌な予感とも呼べる、胸の騒めきがアミさんを襲っていたそうだ。


「今までは会話は出来ていたのですが、最近の息子はまるで獣のような唸り声しか出してくれないんです、ずっと……ずっと苦しそうなうめき声を出して、すごく苦しそうで、助けようにも私どもでは何も出来ないんです、聖王様だけが、頼りなんです。」


 気落ちした声で語る父親の手によって辿り着いた部屋の前、彼は鍵束から一つ鍵を通すと、大きい扉を両手で開いた。


「ぅうぐ、うぁああ……。」


 アミさんは、すぐに部屋の中を見ることはできなかったそうだ。カーテンなどで人工的に仕切られ陽の光一つすら差していない、作られた暗闇から人とは思えない呻き声が聞こえてきたと。

 そして扉を開けた風圧が運んだ匂いは生肉か何かを腐らせたもので、護衛達から先ほどよりも数倍引き攣った悲鳴が聞こえ、アミさんはますます嫌な予感がした。


「……ああ、そうだろうね、苦しいだろうね。」


 まだ廊下側にいたメラクくんは、右手に白い光を灯して真っ暗な底を照らすと、奥の方へと進んでいったから、アミさんもそれを追った。


「っ!!待って、メラク!!」


 中央が膨らんだ天蓋付きのベッドがメラクくんの光に照らされると。


「うぁ、うぁあ、ああああがああああああ!!!!」


 人の声のような、でも獣の声ともつかない叫びが上がった。


「本来死にゆくはずの肉体を、何度も何度も無理やり再生させて魂を繋いで生かされても、肉体は何れ崩壊するし、その痛みだって激しくなる。」


「め、メラク様?」


 狼狽えた様子でアミさんに続いた護衛の1人が声をかけても、メラクくんはそれに答えず照らされたベッドへ語りかけた。


「その若さで死に行くことが定めであることを、君のご両親は認められなかった、そして今も、認められていない。」


 彼の手が蠢いているシーツを捲って呻き声の主を露わにした。


「ひ、ひぃいい!!?」


 白い光に照らされて全貌が現れた【ソレ】に、護衛、屋敷の持ち主たる夫婦が悲鳴を上げたという。


「……ねぇ、そこにいたのってさ。」


「ダイスケさんならわかるよね、ゾンビ的なやつって言えば。」


「あー……。」


 『ゾンビ』と言う表現に首を傾げたら、ダイスケくんから注釈が入った。どうやら動く腐乱死体とのことらしい。

 アミさんもその日見た【ソレ】……扉の先で嗅いだ不快な腐臭と目にした死体に近い容貌を、そのように解釈したという。

 でも、それを作り出したのがメラクくんであることはアミさんを含め誰もが信じられなかった、と話しを続けた。


「ば、ばけ、化け物!?どうして息子の、息子の部屋に化け物がいるんだ!?」


「化け物?どうしてそんな声や悲鳴を上げるのかな?君達、自分の息子と会話をしていたのならこうなっていることは知っていたはずじゃないか。」


「あ、あ……さ、最近の息子とは話を、話をし、出来ていなくて……。」


 腕も顔の皮膚も変色してボロボロになった青年の姿に母親は悲鳴をあげて気絶して、支える父親はそれを凝視しながら震えながら答える。その震えが動揺からきているとメラクくんは愉しそうで、まるで、彼らのリアクションを待ち望んでいたような表情だったそうだ。


「本当は彼の変化に気づいていて見ないフリをしていたんだろうけど、そんなことは些細だね。それよりも、貴方方が望んだこと……俺の仕事をしようか。」


 メラクくんはベッドで悶え苦しむそれに、いつもの優しい声音で話しかけた。


「君のご両親は君を治すことを望んでいるんだ、悪く思わないでね。」


「あああ、う、ああ、ああああああ!!」


 救いの光を灯す手を差し出した瞬間、それはメラクくんの肩に掴みかかった。


「っメラク!!」


 【半身】は王の危機が分かれば押し退ける程度は力を発揮できる。

 アミさんがメラクくんと【ソレ】の間に割って入って、両手に携えた銃を肉がボロボロになっているそれの肩口に押し当てて発砲した。魔力が作り出した銃弾は肩口だけを綺麗に撃ち抜いて、強い反動でベッドの奥へ死体らしきものは転がっていく。


「あが、ががあああ!!」


「メラク、大丈夫?!」


「アミ……。」


「あれっていわゆるゾンビってやつだよね!?殺さないとやばいやつで噛まれたら同じになっちゃう系!?そうじゃなくてもこれ消さないとやっばい奴だよね!?」


 等お伺いを立てるも、メラクくんは首を横に振った。


「そうだけど、だめだよ殺してしまっては……彼を完全に治さないといけない俺の救いを待つ人だ。」


「いやいやいやあれ治すの無理でしょどうみても死体じゃん!?ちょっとそこのおじさんおばさん、こんなの野放しにしたらそのうち大変なことになるから息の根止めていいよね!?」


 白の王を守ろうとしても、その対象が白の王が敵対していると見做していなければ【半身】は対象を完全に葬り去れるほどの力を発揮できない。よってアミさんは本気で手が出せず焦り、彼女曰くベッドの上で血を流し肩で息をする人型のソレを警戒しながら許可を取るのは大変だったそうだ。

 父親の男は今の青年を見てなおも戸惑っていて、もう怒鳴る他なかったらしい。


「し、しかしあの子はまだ息をして、動いて……生きて……。」


「いや人襲うように動いてんのおかしいって思わないの!?あんたらがいつも接してた自分の息子ってのはこんなことしてたの!?するような人間性だったわけ!?してないでしょーが!!」


 反論しようもない正論に父親はやっと目が覚めたような表情を浮かべて、視線を青年だったものを改めて映した。唾液と血の混ざった液体を口から垂れ流し、唸るそれに彼の知る面影はないとやっと判断したんじゃないかとアミさんは言う。


「……妻には、私から事情を話します。」


 その言葉にアミさんは、メラクくんにも有無を言わさない勢いで聞いたそうだ。


「メラク!!もういいよね!?」


 青年はベッドの上で四つん這いの体勢を整えて、今にもメラクくん達へ飛びかかりそうになっていて、考える余地はなかったのにメラクくんは落ち着いた声で……そう、全てわかっているような声で言ったそうだ。


「そうだね、望みが変わったから……彼は俺達の敵となった、頼んだよ、アミ。」


 メラクくんがやっとアミさんにそう告げたと同時に、唸り声が咆哮へ変わり変わり果てた青年が飛びかかってきた。

 その時、いつもより冴えた視界が標的をしっかり見定められて、両手に構えた二つの銃口が飛びかかってくる彼の額を的確に捉えられたという。

 間近に迫った瞬間に引き金を引くと、音もない閃光が頭どころか腐敗した青年を包み込んだ。

 【半身】の破壊の力を以ってそれは灰になって消えていく……それで話が終わると思ったアミさんの話は終わらなかった。

 死に行くはずの青年の腐り果てていた身体が、閃光に包まれ綺麗な肉体へ戻っていったというのだ。


「あ……ああ……。」


 肉が腐り落ちて骨が見えて、人ならざるものだった顔が貴族らしい端正な顔立ちへ戻っていくと、息子さんは光の中で微笑んだそうだ。


「あり、がと、う。」


 苦悶が消えた穏やかな笑顔に変わると、彼は美しい姿のままゆっくりと目を閉じたと言う。


「本当はわかっていました。あの年かかった流行病のせいで、あの子はもう助からないと。それでも、白の王の……メラク様ならなんとかしてくれると思ったのです、思い、たかったのです。」


 その後、目を覚ました母親は嗚咽を交えてそう語ったそうだ。


「メラク様が此方へいらっしゃった直後にあの子は息を引き取りました、でも諦めきれなかったのです。死して間もない今なら、きっと命を延ばすことができると愚かなことを願ったのです。それがあの子を苦しめていたなんて……思ってもいなかった……。」


 メラクくんが定期的に此処へ通っていたのは、あの貴族の息子の肉体を無理やり再生させ、死の道に行くはずの魂を無理やり繋ぎ止めるためだった。

 母親はあの姿の息子の世話をずっとしていたから本当のことをわかっていたが、死んでしまうことを受け入れられなかったのだ。だからメラクへ延命を頼み続けていたとのこと。


「どうして、どうしてあんなことを請け負ったのですか?あのご婦人が語っていることが本当ならば、見た瞬間貴方ならその願いを間違っていると指摘して、断っても良かったはずでしょう?」


「断る?そんなことしたら君達がそうであれと願った白の王じゃないだろう?」


「メラク様……?何を、言っているのですか?」


 夕刻の帰り道、護衛の誰かが問うた言葉に答えたメラクくんは笑った。


「人々の救済の象徴であれ、君達は白の王へそう望んだ。死んだ人間を生き返らせることも救済の一つだろう?代々含めて俺達にそんな力は今でもないのに、君達は俺ならできるだろうと押し付けた。」


 護衛達に、アミさん達に向けられた笑顔は夕日の逆光のせいで酷く恐ろしく見えたそうだ。


「なのに……どうしてそんな顔するかなぁ?俺は要望通りにしていたのに。」


「どうしてって、貴方があのお2人の頼みを断らなかったことが間違いだと思って……!!」


「最初は寝込みながらも普通にやり取りできていたよ?でも死にそうになる度にご両親が頼んできたんだ。その結果、ああなったんだけどね……ま、本来死ぬはずの人間を無理やり生かすには再生の力を定期的に注ぎ込むしか方法はない、でも理に背けば背くほど、肉体の崩壊だって始まって、苦痛でおかしくなるのは当たり前でしょう。」


 笑いを含めて語るメラクくんは、さあ帰ろうとアミさん達を促して歩き始めた。

 この日誰もが、アミさんすらも、これ以上は何も聞けず足を動かしてメラクくんを追いかけたそうだ。


「今日はお疲れ様、しばらく国外での仕事はないから、皆ゆっくり休んでいいよ。」


 結局そのまま神殿に着いて、彼はいつも通りの綺麗な笑顔で奥へと入っていって、メラクくんの姿が見えなくなると取り残された護衛達は口々にこう嘆いたそうだ。


「メラク様のいうことが本当なら、死んだ人間は蘇らないということか?」


「メラク様ほどの御力があるなら、もっと他に、他に方法があるはずなのにどうしてやらない!?」


「あんな残酷な方法を取る方だったなんて……!!」


「あんな残酷な人だったなんて……。」


「何て酷い人だ。」


「幻滅した。」


 そんな中、アミさんはどうしても気になって、メラクくんの部屋に行ったそうだ。


「どうして出来ないことをやろうとしたの?」


 と……ここまで語って彼女は黙ってしまった。

 ここから、メラクくんから『愛していない』旨を告げられたことに繋がるのかと理解して、私は空になった自分のカップを置くとフーとため息をついてしまった。

 何から言えば良いか……とりあえず聞いた中で1つ引っかかった部分をアミさんに問うた。


「話の中でさ、アミさんがメラクくんを守った時武器使ってアンデットになっていた青年が……ええと、生前の姿に戻って消滅したって本当?」


「え?は、はい。しかも『ありがとう』って言ってくれたんですよ、唸り声じゃなくて。これには流石にメラクもびっくりしてました。」


「だろうね……だってその現象は間違いなく『再生』、【白の王の半身】が受け継がない力。」


 私の言葉に、アミさんが目を丸くして声なく驚いた。


「そんな驚くことでもないよ、ああいや、驚くべきことではあるね、ダイスケくんと同じ現象が起こっていることはちゃんとアミさんにも出ている。」


 私が1人納得していると、ダイスケくんはでも、と声を挙げた。


「メラク様がそれを指摘しなかったのおかしくない?その人が再生していく様を間近で見てたんでしょ。なんで言わなかったのかな。」


「うーん、メラクくんは自分の仮説を信じているからねぇ……。」


 そう、メラクくんは互いが想い合っていることが【黒の王の半身】のダイスケくんが前例にない自称を発生させた条件だ、とあの日話していた。それが本当ならアミさんが『敵認定したものを再生させながら破壊する』なんて矛盾した力を使えるはずがない、完全にアミさんとメラクくんを交えて話し合う必要が出てきた。


「ちょっとメラクくん連れてくるけど、アミさん、メラクくんと顔合わせることはできる?」


 ラチがあかないと悟って私は立ち上がる。アミさんは顔を強張らせながら首を縦に振った、メラクくんがどんな顔で彼女に『愛していない。』と伝えたのか容易に想像つく。慕っている女の子泣かせた挙句強張らせるのはやっぱり許せないのでこれは一発ビンタくらい見舞うか、と決意新たにメラクくんの執務室兼自室へと向かった。


「メラクくん?」


 ノックしても応答はない、勝手に開けても良かったのだが嫌な予感がして目を閉じる。

 王であれば王の力を追うことなんて造作もない、その結果。


「……っあの、馬鹿!!」


 行先が判明した瞬間私は踵を返す。急がなければ、下手したらメラクくんが危ない。


「ダイスケくん、アミさん、急いでメラクくんを追うよ!!」


「えっ?」


 自室の扉を破壊して2人分を運べる程の風を纏うと、急いで防護服も兼ねる黒の外套を羽織った。


「メラクくんの馬鹿、よりによって国外に行って何かしようとしている!!」

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