第3話  アンナの精霊、僕の憂い


 大きな古木に透き通った女の精霊がいた。

 風の精霊だ……

 抜きんでた力を持ってる精霊だ……

 それが僕にでも良く分かる程、力の強い精霊だったよ。


 アンナは、その精霊と話をしていた。


「千年後か……そんなに待てないな」


 <それが、彼の本来の時間軸ですわ>


「過去に飛ばされて来て、精霊に転生して元の時代へ帰って行ったというのか?おかしな奴だと思っていたが、本当におかしな奴だったな!」


 アンナの声は、悔しそうだった。


 <創世神様の決めたことです、わたくし達の力ではどうにもなりませんわ>


 色っぽい透き通った奥方は、アンナを慰めるように言った。

 僕はそれをジッと見つめていた。


 アンナは、僕を見つけると先ほどまでの寂しげな表情を変えて、ニッコリと笑いかけてきた。


「アンナの探してる精霊のこと?」


「奥方との話を聞いていたのか?祖神のイーリャに奥方から探りを入れてもらったんだ」


「たしか、三年くらい前に別れ別れになった精霊を探してるって言ってた」


「もう、あいつに会うことは不可能だ、という事が分かったんだ。私に竜くらいの寿命があれば違うがな」


「新しく、風の精霊と契約すれば良いんだよ。その木にいる精霊さんは、凄く高位の精霊さんでしょ?僕にだって分かるよ」


「紹介しといてやるよ、タクト。彼女は風の奥方だ。今いる精霊の中じゃ、最高位だぞ」


 僕が木の上を見ると、おっぱいの大きな色っぽ~い女の人が透けていて僕を見て言った。


 <ヨロシクね、タクトゥール坊や>


 坊やと言われて、なんかムカついたな。


「僕、16ですよ!!」


 <坊やには、前世の記憶が昨日のように残っているのですね。この世界では婚礼は家と家が決めるものですわ。一般人ならば恋愛もあるでしょうけど、あなた様は、せっかくロイルの一族に迎えられたのですもの。自分の子を魔法使いにしたいなら、家柄は選ばれる方が良いですわ>


「だから、私が貰ってやると言ってるのに、タクトは良い顔をしないんだ」


 アンナは、ふくれっ面で言う。


「アンナには、好きな人がいるくせに」


 僕は、真っ赤になって走り出した。

 直ぐにアンナに先回りされたけどね。

 風の奥方を連れている。

 契約したのかな?


「そんな奴がいて、お前に求婚なぞしないぞ。誰のことを言ってるんだ?」


「リカルドって……誰に聞いてもそんな奴は知らないって言うけど」


 アンナは大爆笑した。

 それこそ、奥方が守ってくれたけど、僕も吹き飛ばされていたかもだった。

 それくらい凄い突風が吹いたのだ。


「馬鹿か?リカルドが探していた精霊だ!確かに人間臭い奴ではあったがな。

 精霊のくせに、壁ドンしてくる奴なんてあいつだけだよ」


「精霊のこと!?」


 アンナは頷いて言った。


「あっちは、生まれたての精霊で、私は、初めて契約した精霊だったんだ。お互いに特別だと思っていた。この先も風の精霊と契約する気はない」


「奥方を連れて来てるじゃないか」


 僕の指摘に、アンナは照れながら頭を掻いていた。


「奥方には、困ったときに助けてもらう約束があるだけだ」


「何?」


「ひ・み・つ!!」


 僕は、憂いが一つ消えた思いがしたのは気のせいかなぁ。

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