水族館で泳ぐ魚を見てもおいしそうって思わないタイプ?
「そうかあ? 虫も甲殻類も同じじゃん。エビだって節があって、脚だってうじゃうじゃ生えてるのに、みんな平気で旨い旨いって食ってる。要するに慣れだよ。虫は気持ち悪い、不潔だって刷り込まれてんだ」
「それは一理あるな!」
「そうだな。食べてみたらエビに似た味の虫も多いし」
すかさず、語りたくてたまらないテーブル席のメンツがしゃしゃり出る。
中年たちはその後も何かしゃべり続けていたが、松丸は遠のいていく意識を繋ぎ止めるのに必死で、それどころじゃなかった。
エビに似た味……?
「もしかして、最初に食べたせんべいも……」
すがるような思いで呻くと、わずかな望みは容赦なく粉砕された。
「コオロギせんべいだ」
松丸は、悪びれもせずそう言い放った虎太朗を非難しようとしたが、口がパクパクするばかりで、一向に言葉が出てこない。
クソッ! と思って、青リンゴサワーを一気に飲み干した。鼻から刺激的な炭酸と共に香りが抜けていき、ゲップまでフルーティーな気配がした。
ここはもうアルコールの力を借りるしかない。
あんなに勢いの足りなかった松丸が、今や溢れんばかりの勢いに満ちていた。
ダンッと大ジョッキを机に打ちつける。
「えらいもん食わせてくれたな!」
「どういたしまして」
「お礼じゃない! ……だから公園でコオロギ捕まえようとしてたのか? さっき食べたのは君のとってきたコオロギなのか?」
「松丸、水族館で泳ぐ魚を見てもおいしそうって思わないタイプ?」
ふざけるな!
そう叫ぼうとしたが、先に声を荒げたのは狂人紳士だった。
「コタ! それもルール違反じゃないか! 除草剤とか殺虫剤とか、公園なんて何が撒かれてるかわからないぞ!」
「そうだぞ。健康被害が起きてからじゃ遅い」
「今は殺虫剤だの害虫駆除だの、虫を目の敵にしすぎだよねえ」
話が徐々にそれていく。
「ま、でも、コタに捕まる虫なんていないわな」
「そうだな。なんせ都会生まれの都会育ちだもんな」
「んなことねえよ!」
秘密を暴露されたみたいに慌てる虎太朗を見て、中年たちはガハハッと盛り上がった。
「うちで出してるのはちゃんとしたルートで仕入れた虫だよ。安心しな」
松丸にそんな言葉をかけてきたのは店長だ。まったく慰めにならない。
「ちなみにこれはタガメのサワーだ」
空になった大ジョッキと皿を回収しながら付け加えられ、松丸は目を剥いた。
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