んだよ、松丸。都会生まれの都会育ちかよ。

「んまいだろ?」

 頬杖をついてニヤニヤと覗き込んでくる虎太朗に、松丸は素直に頷いていた。

 そこに今度は店長からサラダが出された。ベビーリーフミックスには差し色として半分に切られた真っ赤なミニトマトが混じり、アーモンドスライスと何か黒っぽいトッピングがふりかけられていた。

 口に運んでみると、アーモンドと謎のトッピングの食感がカリカリ、サクサクと楽しく、ナッツと大豆のような風味が香り高く広がった。

「おいしい……」

 自然とそんな唸りがこぼれ、虎太朗がますます自慢げにニヤける。



「さすがコタの連れだね」

 松丸の呟きが聞こえたのだろう。虎太朗の奥に座っていた客が突然そう話しかけてきた。細身で優しい目をした、紳士的な雰囲気の男性だ。

 食事はもう済んだ後らしく、目の前に置かれた定食の皿は美しいくらいに空だ。お猪口を持っているから、今はテーブル席の仲間との会話を肴に、日本酒でも嗜んでいるのだろう。


「おいしくて、つい声に出ちゃいました」

 松丸は照れながら、一応返事をしておいた。そして、平らげたサラダの皿の底に数欠片残っていた黒い粒を指して、虎太朗に尋ねた。

「あの、このサクサクしたのって、何?」

 アルコールに緊張をほぐされ、美味しい料理に感動した彼は、呆れるくらい単純に気を許し始めていた。しかし、虎太朗の返答に、そんなものは一気に吹き飛ぶ。


「コオロギ」


「……は?」

「コオロギの素揚げ」

「……何の素揚げ?」

「コオロギ」

「…………こおろぎ?」

「うるせーな。何度も言わせんなよ」



 コオロギ。僕が食べたコレは、コオロギ。



 言われたことがやっと頭に届いた瞬間、松丸は吐き気を催した。

 皿を改めて凝視すると、確かに黒いトッピングには節のようなものや横すじのようなものが見える。それに気づくと更に気持ち悪さが増して、自分の口腔から胃までを引っくり返して洗浄したい衝動に駆られた。

 昭和レトロとしか思っていなかった店内も、途端に薄暗い、怪しげな異世界のように見えてくる。目の前の青年も、紳士的で優しい目の男性も、狂った異端者にしか見えない。


 口を覆って硬直した松丸を、虎太朗は不機嫌に睨んだ。

「んだよ、松丸。都会生まれの都会育ちかよ。虫を食べるのなんて今に始まったことじゃねーだろ。イナゴとか、ハチノコとか。知らねーの?」


 イナゴの佃煮といえば、日本の昆虫食では最も認知度が高いのではないだろうか。保存がきき、甘辛い味付けにご飯もすすむ一品だ。

 ハチノコも日本各地で佃煮にしたり、味付けしたものをご飯に混ぜ込んだりして食べられる郷土料理だ。その味はうなぎの蒲焼きに似ていることが証明されている。

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