第11話 哀れな表現者たち

表現者たちはこの世で最も不遇かつ哀れな者たちだ。

創作物というのはそれを作った作者の心に依存して形を変えるもの。

つまりは創作物は「作者からの手紙」に近いものだ。

作者がものすごく鬱な気分で書いたものは、たいてい鬱憤や怒り、憎しみが書かれている。

その逆は、いかに素晴らしいかとかそういうのが書いてある。

作者個々の「伝えたいこと」が記されている。なので「手紙」と表現できるのだ。

私がなぜ哀れと言うのか。

それは伝えたいことが、伝わっていないからだ。

例えばどこかの国の独裁体制に嫌気が差して、どうにか伝わってほしいと一人の作家が冒険ものの小説を書いて売った。したら世界中でウケて売れたとする。

ここで本来伝えたいことは「独裁ってクソだよね」ということだ。しかし独裁体制の下、白昼堂々に「独裁国家のクソ野郎」と批判することは難しい。なので冒険もののストーリーに考えを散らばせて、どうにか届けと祈ったのがこの作品。

しかし世界はただ単なる「面白くて凄い冒険者の傑作金字塔」として捉えることしかしないであろう。

それ以上でもそれ以下でも、所詮空想だからだ。

たとえ意味を汲み取れたとて、行動することはできない。

どんなに多くの名声を手に入れても表現者というのは表現で自分の考え方を広めることも、問題解決を謀ることも出来ないのだ。

何も変わらないと知っていてそれでも文を書き進める私たちは一体何をしているのだろうか。

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