第7話 竜王の怒り

 ◇◇◇


 突如、公爵夫妻と叔父の前にピシャンっと稲妻が落ちる。


「ヒッ……」


「な、なにを……」


「だまれ。それ以上戯れ事を申すな……これまでの我が番への侮辱。何よりも許しがたい……」


 続いてジョルジュ王子とキャサリンの前にもぼうっと炎が燃え上がる。


「う、うわぁぁぁぁ!火がっ!僕の服に火がぁ!」


「いやぁーん、髪の毛が焦げちゃうぅ」


 ようやくフィガロの逆鱗に触れたことに気付き、顔を真っ青にして命乞いしてきたがもう遅い。たちまち空には雷鳴がとどろき、すさまじい嵐となる。


「ひ、ひいっ!ど、どうかお怒りをお鎮めください!」


「おお、神よ!愚かなわれらをお許し下さい!」


 必死で命乞いするオリテント帝国の王族や貴族たちを冷たい眼で見つめるフィガロ。それはまるで虫けらを見るような目だった。


 ────もう、ダメだ。竜王を怒らせてしまった……


 誰もが絶望したそのとき


「こらっ!ダメでしょう?そんなことしたらフィーが悪いドラゴンだって言われちゃうわよ」


 こ~いつう~とばかりにフィガロのおでこをつつくフェリシエ。


 するとフィガロはコロッと態度を変えた。


「君を悲しませるものなど全部滅びてしまえばいい。でも、フェリシエに悪いドラゴンだと思われるのは嫌だな」


 甘やかに瞳を蕩かせてフェリシエを熱く見つめるフィガロ。


 フェリシアの心はフィガロへの愛しさでいっぱいになった。ああ、もうこんなところさっさとおさらばしてマドラス竜王国で心行くまでフィーとイチャイチャしたい。そればっかりを考えていた。


「あ、あの、フェリシエ……い、いえ!フェリシエ様には大変申し訳ないことをいたしました。これまでのこと、心よりお詫び申し上げます」


 今にも倒れそうな顔でガクガクと震えるジョルジュ王子に、フェリシエはにっこり艶やかに微笑む。


「あら、ジョルジュ王子が婚約破棄してくださったおかげでフィーとめぐりあえたんですもの。そんな些細なこと何一つ気にしてませんわ。どうぞお気になさらないで」


 寛大なフェリシエの言葉にオリテント帝国の国民はみな涙し、フェリシエを竜の女神としてあがめた。

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