第5話 天使のプロポーズ

◇◇◇


 

「一週間後、王城に竜王陛下がお見えになると連絡があった!すぐに持っている最上級のドレスに着替えて王城に行き、お迎えの準備をするのだっ!」


 そんなものどこにあるというのか。フェリシエは思わず溜め息を漏らした。しかし、


「その必要はないよ」


 凛とした声に思わず振り向くと、庭の片隅で佇む少年と目があった。少年がフェリシエを見て嬉しそうにふわりと微笑む。その瞬間、フェリシエに衝撃が走った。


 ────な、なんたる美少年!


 顔だけは良かったジョルジュなんて目じゃない。本物の完璧な王子様がそこにいた。


 白く透き通った肌にしなやかに伸びた手足。理知的な額に柔らかくカーブを描いた頬。白く艶やかな髪は陽の光を浴びて虹色に輝き……何よりも、魅惑的な琥珀色に輝くその瞳に、フェリシエの目が釘付けになる。


「て、天使様……?」


「なっ!なんだ、貴様は!一体どこから入り込んだんだっ」


 少年は叔父を無視すると、思わずぼーっと見つめるフェリシアの前に跪く。そして、フェリシエの右手にそっと口付けを落とした。


「大好きなフェリシエ。僕と結婚してください」


「え?ええ?あなたは……」


「お、おいっ!なんだこのガキはっ!貴様っ!フェリシエから離れろっ!」


「……うるさい。ちょっと黙って」


 少年が軽く手を振ると、突如風が巻き起こり叔父が尻餅を付く。「ぐぎゃっ」


「きゃっ……」


「ああ、ごめんよ。フェリシエ。さぁ、僕と一緒に行こう。約束したよね?僕がずっと、君のそばにいるよ」


「約束?」


 少年の言葉にフェリシエは首を傾げた。


「忘れちゃったの?毎日僕を抱き締めて、そばにいてって言ってくれたよね?僕なら君を一人にしないよ」


「まさか……」


「ちなみに僕は蜥蜴じゃなくて竜なんだけどね。気付かなかった?」


 可笑しそうにクスクスと笑う少年を呆然と眺めるフェリシエ。


「そ、そんなの!わ、わたし、知らなっ」


 少年―――竜王は、真っ赤になったフェリシエをギュッと抱き締める。


「ふふ。可愛い。泣き虫でとっても可愛い僕のフェリシエ。大好きだよ。僕には君だけだって誓うよ。君の願いを叶えてあげる。約束通りずっと二人でいよう。さぁ、僕に名前をつけて」


「名前が、ないの?」


「うん。だから君に付けて欲しい」


「フィガロ……」


「……フィガロ。それが僕の名前……」


 フィガロの体が強く光り輝くと、見上げるほど巨大な竜に変化を遂げる。


「蜥蜴じゃなかったのね……本当に、竜だったのね……」


「ひっ。ひぃ……りゅ、竜……た、助けて、神様!ど、どうかお助け下さい……」


 地面に頭を擦り付け、ガタガタ震える叔父を無視して、そっとフィガロに歩み寄るフェリシエ。


「ねぇ、竜人族が浮気しないって本当?」


『本当だよ』


「本当に、私だけを愛してくれる?」


『君が嫌って言っても、もう君しか愛せない』


「ふふ。じゃあいいわ。あなたのお嫁さんになってあげる」


 竜はフェリシエをそっと手のひらに乗せると、空高く飛び立った。


「あ、ああ……た、助かった、のか……」


 ――――こうしてフェリシエはマドラス竜王国竜王陛下の番となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る