第4話 フェリシエの過去
◇◇◇
「フェリシエ・ミラージュ!オリテント帝国第一王子ジョルジュの名において、お前との婚約を破棄する!」
貴族学園の卒業パーティーで大々的に婚約破棄されたのはもう三年も前のこと。突然「真実の愛」とやらに目覚めた第一王子は、婚約者だったフェリシエを捨て平民出身の聖女を選んだ。
十歳の頃から辛く過酷な王子妃教育を受けさせておいて、結婚直前にこの仕打ち。
ジョルジュは王子様然とした見た目とは裏腹に、ただただ凡庸な人物だった。ご立派なのは上辺だけ。浅はかで努力嫌い。
そのうち、王族としての義務は放棄し、権利だけを行使して、贅沢に溺れ享楽に耽る日々を送るようになってしまった。
だからフェリシエは人一倍努力を重ねなければならなかった。ジョルジュが足りない分を埋めるために。
フェリシエの功績はすべてジョルジュのものとなり、ジョルジュの失態の全てがフェリシエのものとなっても。
だってフェリシエはこの国で一番位の高い公爵令嬢だったから。王を支える王妃となるべく育てられたのだから。
「承知いたしました。それではこれで失礼致します」
フェリシエだって、ジョルジュのことなんか愛していなかったけれど。愛されることだってとっくに諦めていたけれど。それでも、人生の全てを掛けて精一杯支えて行こうと思っていたのに。
「ふんっ!涙も流さないとはな。全く可愛げのない女だ」
努力したことの。愛そうとしたことの。全てがどうしようもなく虚しかった。
◇◇◇
こうしてフェリシエは王太子妃になり損ねた娘として、領地の片隅に屋敷を与えられ、そこで蟄居を命じられた。王子に婚約を破棄され、高位貴族との縁談は絶望的。
そんなフェリシエに父母の態度は目に見えて冷たくなった。元々先妻の娘であるフェリシエは継母から煙たがられていたので、これ幸いと体のいい厄介払いをされたのだ。
父も若い後妻に骨抜きで、もはやなんの役にも立たないフェリシエのことなんてどうだって良かったに違いない。
フェリシエの悲劇はそれだけではなかった。父から領地管理を任されている叔父は王都から追放されたフェリシエを侮り、徹底的に冷遇した。通いの家政婦を一人付けるだけでろくに手入れのされていない、屋敷の離れに押し込め放置したのだ。
恐らくフェリシエのために用意された生活費や屋敷の維持費、使用人の給料なども使い込んでいるのだろう。フェリシエは新しいドレスひとつ買うことができなかったばかりか、日々の食事にも事欠く有り様だった。
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