ちいさな扉

くもまつあめ

ちいさな扉

 ここじゃないどこかに行きたい。と時々思っていた。


そんなある日ふとした時に、ちいさな扉が見えるようになった。

最初は友達と喋っているとき、友達の肩ごしに壁にに小さな扉があるのが見えた。

赤くて金色のノブが付いている。童話にあるような扉だ。

扉に目を奪われて、あれなんだろう?と思っているうちに、話を聞いていなくて友達に怒られた。


それから数日に一度、誰かと話している時にちいさな扉が見えた。

扉は赤、青、緑だったり・・・高いところにあったり、床についていたり、窓についてる・・・なんて時もあった。

そのたびに扉が気になって、話を聞いていなくて叱られたり、がっかりされたり、ため息をつかれたりもした。

相手の失望など一切気にはならない。私の興味は扉にあった。

不思議なことに、ちいさな扉が見えたとき開けようと近づくと消えてしまう。


あの扉は、なんだろう。

わたしの幻覚だろうか?


扉が見える理由、扉の向こうにあるものが気になって仕方ない。


ちいさな扉は誰かと話している時にしか現れない。

私は、扉を見るために誰かと話すようになっていた。


家族、友達、知り合い・・・・

手当たり次第に話しかけ、扉が出てくるのを待った。


すると、扉はすぐに現れたが、会話を終えて扉に近づこうとするとやはり消えてしまう。

おまけに話を聞いていないものだから次第に私と会話をしてくれる人がいなくなった。

それはそうだ、自分から話しかけて反応も何もないのだから。


それにしても、なぜこんなにあの扉が気になるのだろう。

まぁ、考えても仕方ない。


扉のことが気になって仕方ない私は、いいことを思いついた。

扉が出る条件は知っているのだ。これは上手くいくと思う。


ある日曜日。

駅前通りで人通りの多いところから、片っ端から見知らぬ人に話かけていく。

どんな人でも話かければ少なからず会話が発生する。

扉が現れたら、会話が途切れる前に次の人に話しかけて扉に近づいていくのだ。


この作戦は上手くいった。

駅前は人で溢れていた。


「あのすいません、今日はいい天気ですね?」

話しかけた人の肩越し、大きなビルの壁に今日は黄色の扉が見えた。

「え・・・何!?ちょ・・・」

話しかけらた人はぎょっとして、私を避けようとする。

扉が消えないうちに私は扉の方に向かって歩き、次の人に話かける。

「あの、すいません、この辺りに花屋はありますか?」

「きゃぁ!何よあなた?」


また少し扉に近づく。

「あの・・・あなたの髪型素敵ですね?」

「・・・はぁ?」

皆、私を変人扱いしている。

そんなことはどうでもいい。


これを数回繰り返してとうとう扉がついているビルの前まできた。


ビルには似つかわしくない扉のノブに手をかけられるところまできた。

やっとだ、やっとこの扉の向こうを見ることができる・・・・


そう思って、ノブを握ろうと手を伸ばした瞬間・・・・

私の身体に大きな衝撃が走った。

身体が宙に浮き、地面がぐるぐる回る。


周囲から大きな悲鳴が聞こえる。

「事故だ!車にはねられたぞ!!」

「信号赤だったのに・・・・あの人ふらふらと前に出て行って・・・」

いろんな人の声が聞こえる。


私は諦めずに手を伸ばすとドアノブに手がかかり、すっと扉が開く。

やった!とうとう届いた!

そう思うと中から、真っ黒な手が伸びてきて私の手を掴む。

瞬間的にまずいと思ったが、しっかりつかんだ黒い手が私を扉の向こうに引きずり込む。


私は黒い手に引きずられながら振り返り、扉の向こうの血だらけで道路に横たわる私を見た。



そして、ここじゃないどこかに行きたいと強く願った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちいさな扉 くもまつあめ @amef13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ