初クエストの冒険者!アドバイスが難しい!
次の日、約束通り
「あ、あの……先輩から紹介されて来たんですけど……」
彼らは二人組のパーティーでレベルは3だった。まさに冒険者として、今から初クエストを経験する、初心者の中の初心者だ。おどおどと自信なさげに冒険者アドバイススペースに入って来た彼らを見て、私は微笑ましい気持ちになった。
「初めまして。お話は聞いております。私はフェイ・アブストと申します」
「は……初めまして!僕はセイルと申します!」
勢いよくお辞儀をするセイルは、黒髪に黒い目の東洋風の男だった。いや……まだ男の子と言ってもいい位の年齢。手元の資料を見ると15歳とある。背中に背負ってる大剣が不釣り合いに見えるほど、小柄で
「先輩から、初めてクエストに行くならフェイさんからアドバイスを貰えって言われて来ました!今日はよろしくお願いします!」
「はい。そういう風に言って頂けて、とても嬉しいです。初クエストは、どんなクエストなんですか?」
「え~と……」
セイルは後ろで控えていた、長身の仲間の男から依頼書を受け取って、カウンターの上に広げた。
「近くの村のゴブリンの討伐です!東にある……ルソン村ってところです。最近、畑を荒らすゴブリンが増えてきていて、村の人たちだけだと、退治しきれないらしくて。もしも可能ならゴブリンの巣も駆除して欲しいって」
「なるほど。基本クエストはゴブリン討伐。もしもゴブリンの巣を駆除出来たら、追加でクエスト報酬が貰える……という事ですね?」
「はい!」
「少々お待ちください」
私はバックヤードへ移動して、モンスター図鑑からゴブリンのページを探した。数種類のゴブリンをピックアップして、いつもの様にコピー機でコピーする。資料を手にカウンターへ戻ると、セイルは所在なさげにしていた。
「お待たせしました。こちら、ルソン村近くに生息するゴブリンの資料となります」
「ありがとうございます。えーと……わ!こんなに種類が居るんですね」
「ええ。ルソン村の近くには、ゴブリンが
私がセイルにアドバイスをしていると、後ろに居た彼の仲間が話し掛けて来た。
「なあ、フェイさん。なんだかんだ言ったって、所詮はゴブリンだろ?俺は冒険者になる前は炭鉱夫で、よくゴブリンを討伐してたけど、アイツらは馬鹿で弱い、ただの小鬼だよ。そんなに注意する必要があるか?」
どうやら彼は、かなりの自信家の様だ。初クエストというのは、どんな冒険者でも緊張するものだが、彼にはそれがない。いや……内心、緊張していて、それを隠そうとしているのかも知れないが、これはとても危険なことである。勇気と無謀は違う。少しキツめにアドバイスしないとな……。
「確かにゴブリンは他のモンスターと比べると、弱い部類には入ります。しかし毎年、ゴブリン討伐で数百人の冒険者が亡くなっていることをご存じですか?」
「そ、そんなに!?」
セイルは驚いて、目を見開いた。
「ねえ、カシク……ここは慎重にいこうよ」
自信家の元炭鉱夫の名前はカシクというらしい。手元の資料に目をやると、格闘家、とあった。セイルと同じ15歳らしいが、その年齢にしては大人びていて
「セイル。お前は昔っから臆病だな。もう俺らは冒険者なんだぜ?」
「でもさ……」
「でも、じゃねーよ!もっと自信持て!」
「う……うん……」
どうやら二人は昔からの知り合いのようだ。
「セイル様、カシク様。お二人のレベルならゴブリン討伐は、余程の事がない限りクリア可能だと私は思っております」
「だろ?フェイさんもこう言ってるんだ」
「しかし」
私は少し語気を強めて言った。
「データによると、冒険者の初クエストの失敗率は5%もあります。勿論、これを高いと感じるか、低いと感じるかは本人次第ですが、念には念を……」
「で、ですよね!フェイさん!」
セイルの言葉に、カシクは渋々と言った感じで私のアドバイスを受ける事を承諾した。
その後、数種類のゴブリンの特徴、弱点などを話し、出来れば巣の討伐は避けた方が良いと言った。カシクは納得していないようだったが、私が何度も繰り返しアドバイスする内に納得してくれた様だ。
「最後にこちらをご購入いただけると幸いです」
私はカウンターから一枚の羽根を取り出した。
「なんですか、これ?」
「こちらは『帰還の羽根』というアイテムで、一番最後に訪れた村まで瞬時に帰還することの出来るマジックアイテムです」
私がカウンターの上に帰還の羽根を置くと、カシクは少し渋い顔をした。
「これ、高いんじゃねーの?」
「初クエストに向かわれる方には90%オフの値段で発売しております」
「でもよー。これ買うくらいなら、何か強力な武器買った方が良いと思うんだけどな」
カシクは少し渋った。
「絶対に後悔はさせません。保険……というよりお守りのつもりで購入してください」
その言葉を聞いて、セイルは何度か頷いて購入を決めた。
「フェイさん、ありがとうございました。じゃあ、今から初クエストに行ってきます!」
「ご武運を。クエストのクリアを心より願っております」
手を振ってアドバイススペースを去るセイルたちを見送って、私はオフィスに戻った。
この時、二人にもっとキツく注意しなかった事を、私は後悔する事となる。
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