初めてのアドバイス!天職かも知れない!

 午後になって、緊張しながら、私は冒険者アドバイススペースへ向かった。そこには、もう客である冒険者たちが待っていて、慌てて対応を始める。アリスが私から少し距離を取って、後ろで待機してくれた。


「こんにちは!私はフェイ・アブストと申します。この度は、どのようなご相談でしょうか?」

 初めて私が担当することになったのは、平均レベル20くらいのパーティー。5人組の中級冒険者だった。冒険者ギルドには何度も来ていて、お得意様。アリスいわく、とてもやりやすい人達よ、とのことだった。書類を確認すると、まだ一度もクエストに失敗していない。優秀だ。


「フェイ?新人さんかい?」

「はい。本日から業務に就いております」

「そうかあ。まあ、新人にしては頼りない印象はないし、アンタでも良いか」

「ありがとうございます」

 たかだかレベル20の冒険者が!とは思わなかった。私が彼らをヒヨッコだと思うように、彼らからしてみれば私もヒヨッコなのだ。お互い様である。


「俺はこのパーティーのリーダーをしてる。勇者だ」

「おお!勇者様なのですね。素晴らしい!」

 へへへ……と照れ笑いをしながら、若者は胸を張った。勇者の資格試験は、実際かなり難しい。この若さで勇者になっているのは凄いことである。


「実はさ……今度、ゴシの洞窟にドラゴン退治に行こうと思ってるんだけどさ……」

「はい」

 ゴシの洞窟……魔王軍時代の私の担当地区だった。今は深刻なドラゴン不足で、ゴーレムが洞窟を守っている筈だ。


「あの……俺らドラゴンとは戦ったことなくて。対策とかのアドバイスが欲しいんだよ。ゴシの洞窟のマップも欲しい」

「承知しました。少々お待ちください」

 私はバックヤードへ移動して、ゴシの洞窟のマップを取り出した。コピー機で拡大してから、カウンターに戻る。


「こちらがゴシの洞窟のマップになります」

「ありがとう……うわ。かなり複雑で深い洞窟なんだな」

 若者はマップを確認して、渋い顔をした。


「ええ……正直に申し上げますと、レベル20のパーティーで、ゴシの洞窟へのチャレンジは、かなり難しいと思います」

「そうかあ……」

「しかし、不可能ではありません」

 私はボールペンで、ゴシの洞窟のマップに何個か印を付けた。


「先ずはここなんですが、休憩できるスペースがあります。ここで体力を回復することをオススメします。そして、ここ……ここには人間好きの光の精霊が居て、鱗粉をくれます。鱗粉は光属性の加護を与えてくれます」

「え!?そうなのか!」

「はい。あと、お客様の目的はドラゴン退治でしょうか?それともゴシの洞窟をクリアすることでしょうか?」

「どういうことだ?」

「実は……ゴシの洞窟のボスは、たまにドラゴンではなくてゴーレムになっていることがあるんですよ」

 私のアドバイスを聞いて、若者は、はあ~とうなった。


「俺らは、ゴシの洞窟の最深部にある宝が目的なんだ」

「では、ドラゴン対策だけでなく、ゴーレム対策も必要ですね」

「うん……ゴーレム対策って何をすればいいのかな?」

「『妖精の針』か『石砕きのこん棒』がオススメですよ」

 私の言葉を聞いて、若者は何度も頷いた。


「確かココって武器の貸し出しもしてたよな?どちらかの武器って借りれる?」

「はい。『石砕きのこん棒』は、まだ数が残っています」

「じゃあ、それ貸してくれ」

「分かりました。ではコチラにサインを」

 武器の貸し出し書類を取り出して、若者に差し出す。若者は笑顔でサラサラとサインをした。


「フェイ……いや、フェイさん。ありがとう。また来るよ!」

「こちらこそ、いつもご愛顧ありがとうございます。冒険の成功を祈っております」

 若者たちがカウンターから去っていくなり、アリスが私の元へ駆け寄って来た。


「フェイ!貴方、見込みあるわ!初日で、あれだけ出来れば、充分よ!」

 アリスに褒められて、私はペコペコと頭を下げた。自分でも、この仕事は天職かも知れない、と感じた。魔王軍でつちった部下からの相談を解決するスキルもることながら、魔王軍そのものに詳しいので、モンスターたちの攻略法などもバッチリである。




 OJTは数日続いた。




 その後は、一人で業務をこなした。数ヶ月もすると、戦力として期待されるようにもなった。何度かミスもしたけれど、同じ部署の同僚たちに助けられて、何とか乗り切った。


「フェイさーん!今日も相談あるんだけど」

 先日、ゴシの洞窟をクリアした若者たちがやって来た。


「はい。本日はどのような相談内容でしょうか?」

「うん。実はさ、俺らの弟分的なパーティーが、今度初クエストに挑むんだよ。フォローをフェイさんにお願いしたくて」

「私に……ですか?」

「ああ!俺らの中ではフェイさんが一番だぜ」

 感動で身震いしながら、若者たちの要求を受け入れることにした。


「じゃあ、明日、そいつらが来るから、よろしく頼むわ」

「はい。ではお待ちしております」

 私は満面の笑みで、若者たちを見送った。

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