第2話 白い名前と黒い名前
目覚めてから二日目の朝、私は部屋で朝食をとっていた
メニューはサンドイッチとスープ、そしてサラダ
昨日と同じ人が食事を持ってきてくれた、どうやらこの人が給仕さんらしい
そんな事を思いながら食事を済ませると、昨日と同じ様に給仕さんが空いた食器を片付けにきてくれた
その後はまた白服を着た人が数人部屋に来て、昨日と同じ様に質問してきた
「ナマエは思い出せたかな?」
ナマエという知らない単語を自分の中で思い返す、だけど記憶がはっきりせず、私は再び首を横に振った
「そうですか」
一人の白服を着た人が残念そうに答える、その後、違う人からこんな提案が出た
「いつまでもナナシじゃ困りますし、一時的に彼女に考えて貰うのはどうでしょう?」
「ナナシ?考える?」
私はこの提案の意味が分からなかったが、白服の人達は各々頷いていた
その提案が出た後、一人の白服の女性が質問してきた
「あなた、好きなものや気に入ってるものって覚えてたりするかしら?」
私は自分の記憶を思い返してみた、しかし彼女の言った好き、気に入ってるというものは何も思い付かなかった
「いえ、覚えてません...」
「それじゃ、今目に見えているものでは何かある?気になったものでもいいから」
そう言われ私は部屋の中を見回した
ベッド、机、花瓶、テーブル、天井等色々見てみたがこれといって気になるものはなかった
「気になるものは、ないです」
「そっかー」
「あ、でも...」
私は言葉をいいかけ改めて部屋を見た、辺り一面白色ばかりの部屋を
「この部屋が真っ白なのがちょっと気になります」
「それじゃ、あなたは今日からシロナって事でいいかしら?」
私がそう言うと白服の女性からそんな事を聞かれた
「私が、今日からシロナ?」
女性の言ったことを私は理解出来ていなかった
「そう、ナマエが無いのだから、あなたのことをシロナと呼びたいのよ。」
「は、はぁ...いいですけど」
私は特に気にもせずシロナと呼ばれる事を承諾した
その後、一人の白服を着た人が女性に質問してきた
「何でシロナなんですか?」
「この子がこの白い部屋が気になるって言うから白い名前でシロナにしたのよ」
「安直ですね」
質問をした白服の人は茶化しながらそう言った
「茶化すんじゃないの。とりあえず、今日から改めて宜しくね。シロナ」
こうして“私”は“シロナ”になった
その日の夜、いつもなら既に寝ている時間、私は眠れないでいた
「シロナ...私のナマエ...」
白服の人達が私につけてくれたナマエ、シロナというナマエを呟き返していた
呟き返していく度にだんだんよく分からない感情が芽生えた
「この感情は嬉...しい?」
自分でもよくわからない感情に戸惑っていると扉が開く音がした
振り向くと、そこには私が目覚めた日に会った女の子がいた
最初に会った時と同じ真っ黒な服を着ていた
「こんばんは、夜分遅くにごめんなさい」
彼女は一言謝罪するとそのまま部屋の中に入ってきた
「こんばんは、また会いましたね」
「覚えていてくれたのね、私のこと」
彼女は自分のことを覚えていてくれたことに喜んでいた
こんな真っ白な部屋であそこまで黒い服を着た人がいればかなり印象に残るので忘れられないでいた
「それで、今日はどうしたんですか?」
「昨日と同じよ、そういえばあなた、シロナってナマエを貰ったんでしたっけ?」
「え?何で知ってるんですか?」
「白服の人にちょっと仲のいい人がいてね。その人から聞いたの」
そう言いながら彼女は私の前まで歩いてきた
「そうだったんですね」
「それであなた、そのナマエ気に入ってるの?」
彼女の質問に私は少し考えてから話を始めた
「うーん、気に入る気に入らないはよくわからないですけど、つけてくれた時によくわからない感情になっちゃって」
「よくわからない?」
「はい、嬉しい?って感じのちょっと曖昧な」
「そう...」
私の返答に彼女は微笑んでくれたが、その笑顔からは少し寂しい感じが漂っていた
その後は彼女と他愛のないお喋りして夜も更けていった
「それじゃ、私はそろそろ...」
彼女はそう言って部屋から立ち去ろうと席を立った。それと同時に私は彼女にナマエを聞いた
「あの、あなたは何て言うんですか?」
「私?」
「はい、あなたのナマエが知りたいです。二回も会ってるのにナマエ?がわからないのも嫌なので」
「......」
彼女は少し考えた後、自分のナマエを言ってくれた
「...クロナ、私はクロナよ」
「クロナ...さん」
「クロナでいいわ」
「わ、分かりました。クロナ」
「ええ...それじゃお休みなさい」
そう言い残してクロナは部屋を後にした
「クロナ...私が付けられたシロナと似たようなナマエだったなぁ」
私はクロナとの会話を思い返していた
「そういえば、私のナマエに対して寂しそうな顔をしてた気が...」
クロナの顔を思い出そうとするが、先に睡魔が襲ってきてしまった
「んー...今日は遅くまで起きてたから眠たい...クロナのことは明日考え....」
と言いかけながら私はそのまま眠ってしまった
明日もクロナに会えるかもという期待を持ちながら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます