第20話 お買い物って楽しい
靴に服に髪飾りに装飾品。
アルカナが今までに触れてこなかったものたちが今、アルカナの全身を包み込んでいる。
「どうじゃ、妾の見立ては? 良い品ばかりでしかもそなたに似合っておるだろう」
「本当に!」
鏡の前に立つアルカナは、力一杯頷いた。
アルカナは少女と一緒に入った店で、いつも着ていた地味な服を脱ぎ捨てていた。
白地に赤い花が散りばめられたワンピースは、袖は丸く引き絞られていて非常に可愛らしい。
「パフスリーブは今の流行じゃ。胸元がスクエア型になっているのも、デコルテが美しく見えるので貴婦人たちにも人気のデザインになっておる。ほら、これならば首飾りも映えるからのう」
「はぁ」
少女の繰り出す専門用語はアルカナに少しも理解できないが、ワンピースが素敵なのは理解できる。
「カチューシャも似合っておるぞ。兎耳の真ん中にちょうどリボンがくるのがええのう」
確かにカチューシャ、いいかもしれないとアルカナも思った。
「それから靴。足首のところで留めるタイプじゃが、これがただの紐ではなくリボンの形をしているのがポイントじゃ。妾が履いているものと同じじゃな。ほれ」
言って少女が裾をチラリと捲ると、確かに同じようなデザインの靴が顔を覗かせた。
少女は胸をそらして言う。
「このリボン型バックルのパンプスを流行らせたのは妾じゃ。妾は常に流行を生み出すファッションリーダーなのじゃよ」
「ファッションリーダー。かっこいい……」
「案ずるな、そなたの鞄も妾の手によって一躍流行のものになろう。今の服と似合うておるぞ」
「ありがとうございます」
アルカナは半ば夢見心地でそう返事をする。
少女の言うことが本当であろうとなかろうと、アルカナにとっては大したことではない。
大切なのは、少女が一緒にお買い物をしてくれて、アルカナの鞄を褒めてくれたという点にある。
今までの、必要だからと買っていたものたちとは大違いだ。
心のままに欲しいものを手にできる生活。
アルカナの中で眠っていたお洒落への渇望が疼きだす。
「お洒落って、お買い物って、楽しい」
「そうじゃろう、そうじゃろう。自分の好きに正直に生きるのは大切なことじゃよ」
少女は楽しそうに笑ってそういうと、その後もアルカナの買い物に付き合ってくれる。
昼過ぎまで買い物をしたアルカナは、「もう帰らねば怒られる」という少女に店の場所をメモした紙を渡すと、別れた。
「はぁ、いっぱい買っちゃった」
どれだけ買ってもなくならないほどの金貨があるので懐はほとんど痛いんでいないのだが、今まで自分のための買い物とは無縁だったため「贅沢しちゃった」という気持ちになっていた。
ちなみに最初の店で買ったワンピースとカチューシャをそのまま着て買い物を楽しんだ。
足元を見ると、大きなリボンが特徴的なパンプスが足元を彩っている。
「えへへ……」
全身が可愛いで構成されたアルカナは気分が上がっていた。
右手には、モーガンが作ってくれた鞄がしっかりと握られている。
中には財布を入れてあった。
鞄に入っている財布からお金を取り出して買い物をする、という行動自体がアルカナにとっては新鮮だ。大体亜空間からそのままお金を取り出すので、財布も今日せっかくなのでと購入したものである。
浮き足立ったアルカナは、店に帰ってくると扉を開けて中へと入る。
「ただいま、モーガンさん」
「おかえりアルカナ。服、買えたんだね。似合ってるよ」
意外にもモーガンは工房から出てきており、帰ってきたアルカナを出迎えてくれた。
新しい服に身を包んだアルカナを誉めてくれ、アルカナは少し照れくさくなったが、調子に乗ってその場で一回転してみた。ワンピースの裾がふわりと揺れ、持ち上がる。
「うん、いいじゃないか。アルカナは赤が似合うね。買い物はどうだった?」
「楽しかった。途中で出会ったお嬢様が一緒に買い物に付き合ってくれてね、その子、この鞄と同じものが欲しいんだって。数日かかるかもと伝えておいたんだけど、手が空いた時にお願いできる?」
「お安い御用だよ」
モーガンが快諾してくれ、アルカナはほっとする。
「アルカナデザインの鞄、気に入ってくれる人がいてよかったな」
「うん」
〈空間魔法〉以外でも誉められる。それはアルカナにとって非常に嬉しい出来事だ。
「せっかくだから、もっと他のデザインも考えてみたらどうだろう」
「やってみようかな……」
モーガンが工房にこもっている間、アルカナに出来ることは少ない。
ならばその間に、他の鞄のデザインを考えるのもいいかもしれないとアルカナは考えた。
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